研究課題/領域番号 |
16H04862
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
宅見 薫雄 神戸大学, 農学研究科, 教授 (50249166)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生殖隔離 / 高密度連鎖地図 / ゲノム解析 / 種間雑種 |
研究実績の概要 |
育種において近縁種からの有用遺伝子の導入は今後ますます必要となるが、種間の生殖隔離等の問題から必ずしも包括的かつ効率的に野生種は遺伝資源として活用されていない。実際にパンコムギ育種においても、タルホコムギ等の近縁野生種からの病害抵抗性遺伝子や種子貯蔵タンパク質遺伝子の導入が図られているが、実際には種間の生殖隔離等の技術的問題から、必ずしも野生種という遺伝資源が有効に活用されていない。コムギ近縁種間で交雑を行うと種間雑種において「Grass clump」と呼ばれる表現型がしばしば観察されるが、二粒系コムギとタルホコムギの種間雑種では低温下でtype IIネクローシス、常温下ではgrass clumpを示す。本研究では、この温度依存型の表現型可塑性の分子機構を明らかにするとともに、その原因遺伝子を単離して、単離遺伝子と表現型可塑性との関わりを明確化することを目的としている。平成28年度は、このタルホコムギ側原因遺伝子Net2の単離に向けて周辺に存在する遺伝子のリスト化を行った。この過程で合成パンコムギ系統においても、タルホコムギの葉のRNA-seqデータを用いれば、バルク分析による連鎖マーカーの作出が可能であることを示した。また、二粒系コムギとAegilops umbellulataの種間雑種で見られる温度に影響されないgrass clumpについて網羅的な遺伝子発現プロファイルを解析し、その特徴を明らかにした。両grass clumpともに、コムギの開花促進遺伝子の発現が低下し、miR156/SPL遺伝子経路が異常となるために、開花の著しい遅延を伴う過剰分げつと矮化が起きることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、タルホコムギがもつ二粒系コムギとの生殖隔離遺伝子のうち、grass clumpを伴うハイブリッドネクローシス(type II)のタルホコムギ側原因遺伝子Net2と、type IIとは異なるハイブリッドネクローシス(type III)のタルホコムギ側原因遺伝子Hch1について解析を進めた。タルホコムギBACクローンのライブラリーからNet2とHch1に連鎖するマーカーを用いてスクリーニングを行ったが、用いたBACクローンの大腸菌内での増幅効率が悪く、その後の解析に用いるのは困難と考えた。代わりにパンコムギのreference配列ver1へアクセス可能となったので、このゲノム情報を用いてNet2とHch1周辺領域に存在する遺伝子のannotationを行い、リスト化した。Net2座周辺は近縁種と比べても構造変異が起こっている可能性が高かったが、Hch1周辺領域は染色体構造が近縁種間で概ね保存されていることが明らかとなった。Type IIネクローシスを示す分離集団後代の個体群と形態異常の見られない分離集団後代の個体群の葉から、それぞれのバルクRNAを作成してIllumina MiSeqによるRNA-seq解析を行った。そのデータの解析結果からNet2座に密接連鎖したマーカーを得た。一方、Aegilops umbellulataの12系統を用いて葉のRNAのRNA-seq解析を行い、ゲノムワイドマーカーを検出した。これらのマーカーはオオムギやタルホコムギゲノムに効率的に位置付けることができた。二粒系コムギとAegilops umbellulataの種間雑種で見られるgrass clumpについてクラウン組織のマイクロアレイ解析により、その遺伝子発現プロファイルが常温下での二粒系コムギとタルホコムギの雑種におけるgrass clumpとよく似ていることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
二粒系コムギとAegilops umbellulataの雑種で見られるgrass clumpについては、grass clumpを引き起こすAe. umbellulata系統と引き起こさない系統とのF1を二粒系コムギ品種Langdonに交雑した集団を現在展開しており、grass clumpと正常個体が1:1で分離することを確認している。それぞれの形質について20個体のRNAのバルクを作成し、Illumina MiSeqによるRNA-seq解析を行いbulked segregant分析によって、grass clumpのAe. umbellulata側原因遺伝子の座乗染色体の決定と染色体上の位置の特定を行うとともに、密接連鎖したマーカーを得る。二粒系コムギとタルホコムギの雑種におけるgrass clumpについては、平成28年度にリスト化した遺伝子についてマッピング集団の両親(タルホコムギ親)間の多型の検出を行い、Net2に完全連鎖したマーカーの作成を行い、Net2領域を狭める。grass clump個体のRNA-seq解析を行いNet2領域にreadをマッピングして、領域内の発現遺伝子のみを抽出してこれらを候補遺伝子とする。二粒系コムギ品種Langdonの受精後2週間程度の種子から胚盤組織を取り出してカルス化を行い、Langdonの培養細胞を確立する。このLangdonの培養細胞に候補遺伝子を導入して細胞死が起こるかどうかをモニタリングしてNet2遺伝子の同定を行うが、細胞死は低温条件下でしか起こらないと思われる。よってこの検定が複雑なものとなるため、同様の方法でスクリーニングしたHch1候補遺伝子をLangdonの培養細胞に導入することで細胞死を検出できるかどうかを並行して進める。
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