パンコムギ育種において、タルホコムギ等の近縁野生種からの病害抵抗性遺伝子や種子貯蔵タンパク質遺伝子の導入が図られているが、実際には種間の生殖隔離が障壁となっている。コムギ近縁種間で交雑を行うと種間雑種において「Grass clump dwarf(異常分げつ矮性)」と呼ばれる表現型がしばしば観察されるが、二粒系コムギとタルホコムギの種間雑種では低温下でtype IIネクローシス、常温下では異常分げつ矮性を示す。本研究ではこのような雑種生育異常の原因遺伝子の単離を目指す。 今年度は、この異常分げつ矮性のタルホコムギ側原因遺伝子Net2に加えて、ハイブリッドクロロシスのタルホコムギ側原因遺伝子Hch1の2つの遺伝子座について解析を進めた。ハイブリッドクロロシス系統の幼苗葉の経時的なRNA-seq解析データに基づき候補遺伝子を1つに絞り込むとともに、RT-PCR解析により絞り込んだ遺伝子が二粒系コムギとタルホコムギの雑種特異的に発現すること、クロロシスを発症する交雑組合せではそうでない組合せよりもこの遺伝子の発現量が高いことを明らかにした。また、候補遺伝子領域内には正常な雑種を作る系統とクロロシスを示す雑種を作る系統間でcDNA内に1箇所非同義置換があり、プロモーター領域には複数のSNPsが認められた。Net2領域でもHch1と同様の方法により、候補遺伝子を2つにまで絞り込むことができた。 また、二粒系コムギとAegilops umbellulataの種間雑種で見られる温度に影響されない異常分げつ矮性について、Ae. umbellulata側の原因遺伝子を6U染色体長腕上に位置づけ、RNA-seqデータを取得した。さらに二粒系コムギと野生一粒系コムギの雑種に見られる雑種矮性について、バルクRNA-seq解析によって原因遺伝子を7Am染色体長碗上に位置付けた。この異常分げつ矮性ではmiR156-SPL遺伝子モジュールに温度非感受性で発現異常が認められた。
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