研究課題
本研究では,環境条件により出穂期が不安定化しやすいコムギ・オオムギ品種を供試し,出穂期不安定性の遺伝機構を解明するために以下の研究を行っている.本年度の研究成果は下記の通りである.1)コムギ系統「超極早生」がもつ早生遺伝子exh-B1 のファインマッピング;「超極早生」はわが国西南暖地の基幹品種である農林61号よりも2週間程度早く出穂する極早生品種であるが,暖冬年にはその差が4週間程度に拡大する出穂期不安定性系統でもある.これまでの研究により「超極早生」が3B 染色体の末端部に劣性の早生遺伝子exh-B1 をもつことを明らかにしてきた.本研究において,大規模分離集団を展開してファインマッピングした結果,exh-B1の座乗領域をX3B-psm54とXcfp1822に挟まれた約1.4Mbの領域に絞り込むことができ,概日時計遺伝子の1つであるPHYTOCLOCK 1(PCL1)が本領域に含まれることを明らかにした.さらに,PCL1がコムギの出穂期に及ぼす効果を明らかにするために,「超極早生」×「きぬいろは」DH 集団のPCL1遺伝子型を決定するとともに,圃場出穂日を記録し,早生遺伝子exh-B1, exh-D1 の出穂促進効果を解析中である.2)コムギ系統「超極早生」がもつ早生遺伝子exh-2の解析;「超極早生」×「Geurumil(韓国品種)」のF4, F5集団を栽培して圃場出穂日の分離を確認するとともに,各種マーカーを用いた連鎖解析を実施しているところである.3)オオムギ日長反応性遺伝子が出穂期不安定化に及ぼす効果の解析;光受容体遺伝子HvPhyC と概日時計遺伝子Ppd-H1 の対立遺伝子の組合せが異なる4 種類のNILs を育成しているところである.
2: おおむね順調に進展している
コムギ系統「超極早生」がもつ早生遺伝子exh-B1の座乗領域をX3B-psm54とXcfp1822に挟まれた約1.4Mbの領域に絞り込むことができた.本領域には14個の遺伝子配列が存在すると推定されるが,概日時計遺伝子の1つであるPHYTOCLOCK 1が含まれており,順調に有力な候補遺伝子を特定できていると考える.また,オオムギについても,HvPhyC とPpd-H1 の対立遺伝子の組合せが異なる4 種類のNILs 育成が順調に進められており,進捗状況は計画通りである.
今後の研究予定は下記の通りである.1)コムギ超極早生系統「超極早生」における出穂期不安定性の解析;分離集団の規模をさらに拡大してexh-B1遺伝子のファインマッピングを行うとともに,候補領域に座乗する遺伝子の発現データなどを獲得して,exh-B1遺伝子を特定する.exh-2 遺伝子については,ゲノムワイドなGBS 解析により座乗染色体領域を明らかにし,候補領域をさらに絞り込む予定である.さらに,これまでの研究で供試した分離集団から育成したNILs セット(exh-B1 遺伝子もしくはexh-2 遺伝子が中生ホモ型の系統と早生ホモ型の系統)を供試し,圃場の自然条件や模擬的暖冬条件(圃場における播種期移動試験(早播き、普通播き、遅播き)やビニル被覆・加温栽培試験)において出穂期の不安定性を解析するとともに,栽培期間中における気温の違い・変化が遺伝子発現やエピジェネティックな状態に及ぼす影響を解析し、出穂期不安定性に関わる遺伝子を特定する予定である.2)オオムギ日長反応性遺伝子が出穂期不安定化に及ぼす効果の解析;HvPhyCとPpd-H1の対立遺伝子組合せが異なる4 種類の遺伝子型系統を獲得し,日長や気温が異なる条件での出穂期を解析して,出穂期不安定性の遺伝学的メカニズムを明らかにする予定である.
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PLoS One
巻: 11(10) ページ: e0165618
10.1371/journal.pone.0165618