研究課題/領域番号 |
16H04865
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
近藤 始彦 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (00355538)
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研究分担者 |
矢野 勝也 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (00283424)
羽田野 麻理 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター, 上級研究員 (00343971)
石川 淳子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 次世代作物開発研究センター, 主任研究員 (40343959)
後藤 明俊 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 次世代作物開発研究センター, 上級研究員 (70355569)
藤村 恵人 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター, 主任研究員 (70560639)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イネ / セシウム / 吸収メカニズム / 品種 / 輸送体 |
研究実績の概要 |
1.根系のセシウム吸収における品種間差異の生理・形態要因の解明においては、耐塩性品種を含むインディカ品種でセシウム吸収が高い要因として土壌溶液中のカリウム濃度の低下およびカリウム、セシウムの選択性の違いが推察された。また水耕栽培試験において登熟期間中の根部から穂へのセシウムの移行に対する根域のカリウム濃度の影響を調査した結果、登熟期間中のセシウム吸収に対する根域カリウム濃度の影響は明瞭ではない一方で、カリウム濃度が低い条件ではより多くのセシウムが穂に移行する傾向が認められ、穂へのセシウム蓄積には出穂期までのセシウム吸収と登熟期の穂へのセシウム転流の関与が大きいことが示唆された。 さらに蒸散との関係解析のために幼苗期から幼穂形成期頃までの約6週間、高湿度または低湿度環境でポット栽培したタカナリとコシヒカリの蒸散量とセシウム吸収の関係を解析した結果、栄養成長期の両品種の地上部へのセシウム吸収に及ぼす蒸散流の寄与は大きくないことが示唆された。 2.セシウムの体内分配・蓄積における品種間差異と分子メカニズムの解明においては、昨年度成果により明らかになった地上部各部位で発現するセシウム輸送体候補遺伝子に着目し、登熟期における遺伝子発現量の変動を経時的に測定したところ、登熟期にセシウムが蓄積する上位節間において発現量が大きく増加する輸送体が認められた。また登熟期にセシウムが再転流され濃度が減少する葉身では、複数の輸送体について遺伝子発現量がコシヒカリよりハバタキで高い傾向が認められた。 3.セシウム吸収、玄米への蓄積の遺伝制御機構の解明においてはコシヒカリ/SL2007およびIR64/SL2109など第2染色体上のファインマッピン グを行うための材料を養成した。これらの素材について、それぞれ160個体程度の遺伝子タイピングを終え、現在、セシウム吸収の調査とファインマッピングを進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
根系のセシウム吸収における品種間差異の生理・形態要因の解明については、その要因解析が進んだ。栄養成長期におけるセシウム吸収に及ぼす蒸散流の寄与は小さいこと、穂へのセシウム蓄積には登熟期間中の穂へのセシウム転流の影響が大きいことが示唆されるなど新規の要因を明らかにできた。このように品種間差異に関わる多面的な生理要因の解析が予定通り進められている。 セシウムの体内分配・蓄積における品種間差異と分子メカニズムの解明に関しても、体内分布の品種間差異の詳細を明らかにし、関与する候補輸送体が見出されている。また耐塩性とセシウム吸収の関連性を示せた。さらに遺伝解析においてはジャポニカ、インディカ両面の遺伝的背景をもつCSSLsで候補QTL領域の絞り込みを進めた。 以上から計画通りに研究は進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにインディカ品種がジャポニカ品種に比較してセシウム吸収が高い要因として示唆されたカリウム吸収による土壌溶液中のカリウム濃度の低下 、カリウム・セシウムの選択性との関係を、品種や土壌条件、生育時期ごとに詳細に検証する。タカナリはコシヒカリに比べ特に幼穂形成期以降に低カリ条件でセシウム吸収が増大することから、栽培期間中のイネのカリウム・セシウム吸収と土壌の可給態カリウム含有量の関係を解析する。また異なるカリ施肥条件下におけるコシヒカリとハバタキの地上部各部位でのセシウム動態の差異と候補輸送体遺伝子発現量の関係性を明らかにする。またジャポニカ品種とインディカ品種 でのセシウム吸収に違いを生じる原因と考えられる遺伝領域を特定するため、コシヒカリとIR64のCSSLを用いた解析を進める。
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