研究課題/領域番号 |
16H04867
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 眞理 九州大学, 農学研究院, 学術特任教員 (60091394)
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研究分担者 |
湯淺 高志 宮崎大学, 農学部, 教授 (40312269)
石橋 勇志 九州大学, 農学研究院, 准教授 (50611571)
鄭 紹輝 佐賀大学, 農学部, 教授 (90253517)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ダイズ / ササゲ / 乾燥ストレス / 青立ち / 子実 / 貯蔵物質 |
研究実績の概要 |
マメ科作物のダイズは開花の時期に拘らず、子実は一斉登熟性をもち、葉茎は水分を失い機械収穫が容易となる特性をもつ。しかし、シンクソースバランスが崩れると、葉茎の水や子実への糖・アミノ酸の正常な転流が阻害され、緑葉のまま子実が成熟する「青立ち」現象を起こし、これには生物的ストレス(虫害)や乾燥ストレスがその引き金となることが知られている。 平成29年度では、ダイズの子実肥大期に乾燥ストレスを受けると、主たる貯蔵物質であるタンパク質合成に関連する遺伝子の発現低下が起こること、さらに、脂質合成に関連する遺伝子の発現抑制と脂質分解のキー酵素をコードする遺伝子の発現促進が起こることを明らかにした。またそれに伴い、子実の糖含量の増大が起こり、乾燥ストレス応答が示唆された。 さらに、乾燥耐性の高いササゲの乾燥適応機構を調べた。ササゲの乾燥ストレス適応戦略において、ABA合成の律速酵素であるNCEDのプロモーター領域に複数のW-boxが存在し、転写因子であるWRKYが直接結合することが明らかとなった。ササゲの根におけるWRKY発現量は、ダイズのそれより有意に高く、乾燥耐性に寄与していると考えられる。これによりNCEDの発現が促進され、ABAが増加し気孔閉鎖を誘導することで乾燥耐性を獲得していることが示唆された。さらに、ササゲは、ダイズを含む他のマメ科植物に比べ、根のプロリン含量も高く、乾燥ストレス時に適合溶質として働くことが考えられる。また、ササゲは初めて乾燥ストレスを受けると速やかに気孔を閉鎖し、光合成が停止するが、2 回目の乾燥に対しては気孔開度を高く保つことで光合成を維持し、成長を続けた。ダイズと異なるこの特異的なストレスメモリー機構には、ABA が深く関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの2年間で、マメ科作物であるダイズおよびササゲの水・栄養転流の要因や乾燥ストレス応答を明らかにした。ダイズの青立ち個体では、葉の窒素含量が減少し、根の窒素含量が増加することから、葉から根へ窒素が輸送され、これには根のサイトカイニン合成の促進が寄与していることが示唆された。乾燥ストレスはダイズの青立ちを誘導するひとつの要因となっているが、乾燥ストレスにより、主たる貯蔵物質であるタンパク質合成に関連する遺伝子の発現低下が起こり、また、脂質合成に関連する遺伝子の発現抑制と脂質分解のキー酵素をコードする遺伝子の発現促進が起こることを明らかにした。それに伴い、子実の糖含量の増大が起こることがわかった。 さらに、ダイズの乾燥耐性賦与を目的とし、アフリカ原産のマメ科作物である乾燥耐性の高いササゲの乾燥適応メカニズムを調べた。他のマメ科作物に比べ、根にプロリンを多く蓄積する性質が明らかになった。乾燥により根でABAが誘導されることはよく知られているが、その律速酵素であるNCEDのプロモーター領域に複数のW-boxが存在し、転写因子であるWRKYが直接結合することが明らかとなった。ササゲの根におけるWRKY発現量は、ダイズのそれより有意に高く、乾燥耐性に寄与していると考えられる。これよりNCEDの発現が促進され、ABAが増加し気孔閉鎖を誘導することでササゲは乾燥耐性を獲得していることが示唆されました。さらに、ササゲはダイズと異なる特異的な乾燥ストレスメモリーをもつことを示した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成30年度は、ダイズの莢先熟(青立ち)現象では、茎葉から莢への水の移動が抑制されることに着目し、器官間の水の動態メカニズムを知るために、乾燥耐性をもつササゲおよび他のマメ科作物の栄養成長期および子実肥大期の各器官を対象に、1) 収量調査、2)子実成分分析、3) 相対含水率・水分動態解析、4)分子生物学的解析、5) 形態額的解析等を行う予定である。さらに、乾燥耐性の高いササゲの乾燥適応メカニズムを明らかにすることで、ダイズへ乾燥耐性賦与の方策を検討する。
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