研究課題
キュウリモザイクウイルス(CMV)のサテライトRNA(satRNA)はCMVに寄生して増殖する300~400塩基の短いnon-coding RNAである。satRNAは大抵の場合、CMVの病徴を軽減するが、我々が研究材料としたY-satRNA(Y-sat)はCMVに感染したタバコを鮮黄色に変化させる。Y-satの存在のみで、なぜ劇的な病徴の変化が生じるのか長年の謎であった。我々は数年前に、この黄化病徴の誘導の原因として、クロロフィルの合成酵素遺伝子(ChlI)が宿主のRNAサイレンシング(RS)によって分解されるためであることを明らかにしている。今年度は、RS経路の重要な因子の中から2本鎖RNA分解酵素であるDCL2とDCL4がY-satの黄化病徴誘導にどのように関わるのか解析するため、DCL2/DCL4のノックダウンタバコを作出した。Real-time RT-PCRによってそれらの発現が低下していることを確認した後、DCL2/4によって生成される21-ntと22-ntのsiRNAを解析した。siRNAをノーザンブロットで解析した結果、これらの蓄積が著しく減少しており、それとは対照的に24-ntのsiRNAが相補するように増加していた。この形質転換植物にY-satを接種したところ、予想に反してタバコが黄化したことから、ChlIに対するRSは24-nt siRNAによるものと考えられ、これまでArabidopsisの研究からわかっていた知見とは異なる新現象であることが判明した。もし、タバコで24-nt siRNAが21-ntや22-nt siRNAを相補するようにヒエラルキーができているのであれば、エピジェネティクス制御は、植物によってRS因子の役割が異なっていることを示唆するものである。
2: おおむね順調に進展している
今年度得られた成果は、Y-satRNAによるタバコの黄化が、2本鎖RNA切断酵素であるDCL2とDCL4によって生成する21-nt 及び22-nt siRNAのみならず、DCL3によって生成する24-nt siRNAによっても、DCL2/4のノックダウン化で誘導されるという新知見である。これは当初の予想になかったことであるが、先行しているArabidopsisによる定説とは矛盾するものであり、植物によってRSの制御のしかたが異なっていることを示すおもしろい現象であると考えている。なお、DCL2とDCL4を認識する抗体を作成することにチャレンジしたが、in vitroで合成したタンパク質には反応するものの、植物から抽出したタンパク質では、明瞭なバンドが得られなかった。おそらく発現量が微量であり、ウエスタンによって検出することは難しいのかもしれない。
次年度は、この新発見を踏まえて、DCL2/4のノックダウン下で生成する24-nt siRNAについてさらに解析する。Arabidopsisでは24-nt siRNAがmRNAを切断することができないことが定説になっているため、DCL2/4ノックダウンタバコで、ChlI mRNAが実際切断されるのか興味深い点であり、5’ RACE法によってこれを検証する。また、RS経路に重要なsecondary siRNA増幅システムの担い手であるRDR6をCMV H1ベクターによって発現抑制し、黄化への影響を観察する。H1ベクターは転写後サイレンシング(PTGS)を効率よく誘導できない性質があり、このベクターに組み込んだRDR6の配列をアンチセンスRNAとしてRDR6の発現をターゲットすることができる。
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