研究課題
キュウリモザイクウイルス(CMV)のY-satRNA(Y-sat)はCMVに感染したタバコを鮮黄色に変化させる。この黄化病徴誘導はクロロフィルの合成酵素遺伝子(ChlI)が宿主のRNAサイレンシング(RS)によって分解されることに起因する。今年度は、このRSに関わる宿主因子を特定する研究を進めた。野生タバコの2本鎖RNA分解酵素であるDCL2とDCL4のダブルノックダウン植物(D24)において、21-nt及び22-nt siRNAが消滅し、DCL3によると思われる24-nt siRNAが顕著に出現した。D24植物はY-satが感染すると依然として黄化することから24-nt siRNAにもクロロフィル合成酵素であるChlI遺伝子のmRNAを分解する能力があるものと推測される。これは、24-nt siRNAが21-ntや22-nt siRNAが欠失した場合に、それを相補することを意味する。また、RS経路で重要なRDR6遺伝子をCMVのH1ベクターによって抑制したD24にY-satを感染させたところ、黄化は観察されなくなった。これは、RDR6が黄化誘導に重要であることを意味する。このとき、すべてのsiRNA種が大きく減少しており、他のsiRNA種と同様に24-nt siRNAの増幅にもRDR6が関与していることが明らかになった。これまで、RDR6は主に21-nt siRNAの増幅に関与するとされていたので、新知見である。Y-sat のターゲットであるChlIはクロロフィル合成以外にもアブシジン酸(ABA)のリセプターとして気孔細胞で機能していることが判明している。昨年度の計画にあるとおり、Y-sat感染タバコで気孔の開閉について解析したところ、ABAには反応できなくなっており、その代わりとしてサリチル酸(SA)の蓄積レベルを向上させて、気孔を閉じていることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
CMVのY-satRNAのタバコでの黄化誘導機構に、宿主のRDR6がDCL2とDCL4が作るsiRNAを増幅する役割を介して関与するルことを明らかにできたので、当初の目標をクリアーできている。また、Y-satのターゲットのクロロフィル合成酵素酵素であるChlIが機構でのアブシジン酸(ABA)のリセプターであることから、乾燥ストレスへのY-sat感染タバコの適応を調べたところ、気孔の開閉をサリチル酸を介して行っていたこと明らかとなり、Y-satが感染植物の生き残りに貢献していることが判明した。Y-satの巧みな生き残り戦略の一つとして注目できる。
最後の1年は、Y-satによって黄化したタバコがいかに乾燥ストレスに対応して、生き残りのメカニズムを作動させるか、分子レベルでの解明を目指す。すなわち、Y-satによるタバコの黄化は光合成能を低下させるものの、それは致命的とはならず、むしろストレス環境下で感染タバコの生き残りを助長している可能性について追求する。具体的には、タバコに乾燥ストレスを与えて、植物体の水分の変動やSAなどのホルモンレベルを調査し、Y-satにより黄化したタバコの耐乾燥性メカニズムを明らかにする。
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