研究課題
キュウリモザイウイルス(CMV)のY-sat RNA (Y-sat)がCMVに感染したタバコを黄化させるメカニズムを宿主のサイレンシングとの関わりにおいて解析してきた。昨年度はY-satのターゲットになっているChlI遺伝子がクロロフィル合成に関与するのみではなく、気孔においてアブシジン酸(ABA)のリセプターとして機能することに注目した。すなわち、Y-satが増殖すると葉が黄化するのみではなく、気孔の開閉が不全となると予想される。しかし、実際は、サリチル酸の蓄積レベルを上昇させて気孔を閉じていることが判明した。この発見はY-satの増殖によって植物が乾燥ストレスに特段弱くなるデメリットが生じていないことを示唆する。ならば、葉の黄化が植物の光合成にどれほどの影響を及ぼしているのか、光合成速度を光の強さに応じて測定したところ、弱光下では健全植物やCMV感染植物に比較して、ほぼ同等であることを観察した。また、強光下であっても健全植物の80%程度の光合成を維持できることを観察し、Y-satの増殖はそれほど感染植物に悪影響を及ぼしていないのではと思うに至った。これらの観察から、以下のような2つの仮説を構築した。①「Y-satは生き残り戦略としてあえてタバコを黄化させており、黄化自体はそれほどタバコにダメージを与えていない」、②「黄化したタバコにはアブラムシが好んで飛来し、Y-satを周囲の植物に伝搬する」。この仮説の実証をするために、アブラムシがY-sat感染タバコに誘引されるか調べることにし、緑色タバコと黄化したタバコの間にアブラムシを放って嗜好性を観察した。その結果、アブラムシは確かにY-sat感染植物に好んで飛来することが明らかになった。Y-satはタバコを黄化させることによって、アブラムシによる伝搬を効率化させており、これは、ウイルスの恐るべき生き残り戦略であると結論した。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件) 産業財産権 (1件)
BMC Plant Biology
巻: 19 ページ: 24
10.1186/s12870-019-1628-y
Plant Cell Reports
巻: 37 ページ: 1513-1522
10.1007/s00299-018-2322-5
Archives of Virology
巻: 163 ページ: 1419-1427
10.1007/s00705-018-3749-2