研究課題
A-1) 初年度にdcl2 dcl3 dcl4の3重変異体植物に感染できないBMV-M2系統から得られた適応変異体ウイルスを17株分離した結果、全てRNA3に変異が見いだされた。プロトプラスト実験によってウイルスタンパク質の発現を解析した結果、全ての適応変異体で共通して3a移行タンパク質が高発現していた。また、特殊な例として外被タンパク質遺伝子領域に大きな欠失変異を持つRNA3と野生型のRNA3が共存することでも適応変異体として振る舞えることが分かり、3分節ゲノム型のブロモウイルスでも4分節ゲノム型ウイルスとして感染性を持つ事が判明した。B-3) 初年度に抵抗性遺伝子の単離は順調に進み、NBS2と名付けた優性のNB-LRR型抵抗性遺伝子を単離できた。また、その遺伝子の塩基配列を12種類のイネ品種で比較検討した結果、ジャポニカ型で抵抗性のK型、インディカ型で感受性のH型、およびインディカ型で抵抗性のN型に分類できた。今年度は、農林水産省農研機構のWorld Rice Collectionの様々なイネ品種に関して候補遺伝子の塩基配列やアミノ酸配列の品種間差異を調査した結果、K型でも感受性の品種があり、またH型でも抵抗性の品種があることが判明した。この結果、初年度に単離した抵抗性遺伝子以外にも新規な抵抗性遺伝子が存在することが強く示唆された。B-4) 九州大学のTILLINGラインを選抜することでNBS2遺伝子中にストップコドンを持つ変異体系統を得た。GFP, HA, mycの各種タグ配列を付加したNBS2タンパク質を発現するようにNBS2遺伝子を改変し感受性イネに形質転換した。その結果、幾つかのタグ配列をC端に付加したコンストラクトで抵抗性を付与することができたことから、それらのタグはNBS2の機能に影響せず有効利用可能なことが示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では(1) BMV/シロイヌナズナ間の非宿主抵抗性と(2) BMV/イネ間の特異的抵抗性という2課題を扱っている。課題(1)については初年度に得た適応変異体に関してプロトプラスト実験の結果、全ての変異体に共通して3a移行タンパク質の高レベルの発現という予想外の結果が得られた。また、外被タンパク質(CP)遺伝子領域に大きな欠失変異を持つウイルスは野生型ウイルスも共存することで適応変異体となるという予想外の結果を得た。メカニズムは不明だが、CP遺伝子の欠失によって3a発現が飛躍的に増大し、全身感染に必要なCPは同一細胞に存在する野生型RNA3から供給されるCPで補うことによって2種のRNA3分子が機能を相補し合っている現象を発見した。このことは3分節ゲノム型ウイルスが4分節ゲノム型ウイルスとなって宿主域を広げるという興味深い現象の発見となった。一方、イネのBMV抵抗性遺伝子NBS2については、初年度に12品種のイネを用いた結果、ジャポニカイネは全て抵抗性で、インディカイネのNBS2遺伝子には途中にストップコドンを有する感受性の型と有さない抵抗性の型の2種類があることが明らかとなっていた。今年度は、全世界のイネの対立遺伝子の9割をカバーするWorld Rice Collectionの69品種を用いて感染性テストとNBS2の3タイプの相関を調べた。その結果、抵抗性だけだったジャポニカイネにも感受性の品種があること、および感受性のみであったストップコドンをもつインディカイネでも抵抗性の品種が存在することが判明したことから、イネにはNBS2以外の抵抗性遺伝子が存在する可能性があるという、当初は全く予想していなかった結果が得られた。タグ配列導入NBS2遺伝子の形質転換イネを作出することで、NBS2遺伝子の機能を保持したままタグ配列を導入できる情報を得ることにも成功した。
課題(1)については初年度に変異体の分離解析は極めて順調に進んだ。今年度は適応変異の全身感染能付与における役割解明を目指してプロトプラスト実験を集中的に行った。その結果、3a移行タンパク質の高レベルの発現が全身感染に必要であること、また、CP遺伝子の欠失変異体の解析からブロモウイルスが4分節型のウイルスとして感染性を保持しうるという興味深い結果を得ることが出来た。一方、BMVへの非宿主抵抗性に関わるRNAサイレンシング以外の因子の探索については殆ど進捗しなかった。最終年度は3a遺伝子を高発現する形質転換体の作出を行い、研究の取り纏めを目指す。3aの高発現ウイルスは自然界に存在しないことから、今回得られた適応変異体はむしろ自然宿主においては感染性が低いことが予想され、非宿主と宿主への感染には3aの発現に関してトレードオフの関係があるとの仮説の検証を進めるため、キノア、ササゲあるいはシロイヌナズナにおける感染性試験を行っていく。課題(2)については、当初の計画を超えて順調に進んでいる。初年度に抵抗性遺伝子の単離は順調に進み、NB-LRR型の遺伝子NBS2が単離できた。2年目は、World Rice Collectionを用いることで、NBS2遺伝子以外にも新規な抵抗性遺伝子が存在することが強く示唆された。今年度はGWASによって新たに見つかった遺伝子を単離する準備を行う。NBS2と相互作用するウイルス因子を酵母2ハイブリッド法によって調査する。一方、N. benthamianaにおけるAgroinfiltration法の利用によってNB-LRRタンパク質と共発現させた際に細胞死を誘導するウイルス因子の同定も試みる。さらに、エフェクター候補発現プラスミドを抵抗性イネ品種のプロトプラストに接種し、細胞死によって共発現させたルシフェラーゼ遺伝子の活性抑制を調査し同定を試みる。
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