研究課題
前年度までに申請者は、Red clover necrotic mosaic virus(RCNMV)の移行タンパク質(MP)と相互作用しRCNMVの細胞間移行に関与する宿主因子タンパク質の候補を、MPをbaitに用いた共免疫沈降法と質量分析によってNicotiana benthamiana植物から多数同定した。今年度の研究において、これらのうち2種類のキナーゼについてさらに調査した結果、Protein Kinase Superfamily Protein(PK)がMPと結合能を持ち、またRCNMV感染細胞内でMPと共局在してプラズモデスマータ(PD)などに局在することを明らかにした。さらにPK遺伝子発現を抑制した形質転換植物を作出した。現在この植物においてRCNMV増殖が影響を受けるかどうか調査を進めている。また上記の候補タンパク質のうち20種類の遺伝子をクローニングし、これらを一過的に過剰発現させた植物を用いてRCNMV増殖に影響を及ぼすものを選抜した。その結果、RCNMV増殖を強く抑制する遺伝子が2つ、ある程度抑制するものが2種同定された。RCNMV MPと相互作用するタンパク質をさらに同定するために、シロイヌナズナのライブラリーを用いて酵母2ハイブリッド法による選抜を進めている。RCNMV MPの機能ドメイン解析研究では、N側領域に予測されるβストランド構造の欠失変異によって、変異MPはPDへの局在性が著しく低下し、ウイルスの細胞間移行機能が完全に喪失されることが明らかとなった。RCNMV MPの立体構造を決定すべく、タンパク質を可能性画分に発現させ、精製することに成功した。現在この精製タンパク質がRNA結合能を有するか否かについて調査を進めている。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、共免疫沈降法でRCNMV MPと相互作用する宿主タンパク質を同定する計画であったが、RCNMVがモデル植物であるシロイヌナズナに効率良く全身感染することが判明したことから、酵母2ハイブリッド法によるスクリーニングにもチャレンジし、擬陽性を排除して多数の候補クローンを同定しつつある。2つの方法で重なる遺伝子があれば、これを優先してRCNMV増殖への影響を評価する予定である。シロイヌナズナでは遺伝子破壊ノックアウト変異体タグラインを利用することが出来るため、今後候補遺伝子の中からRCNMV移行関連宿主遺伝子を同定することは比較的容易であると考えられる。また過剰発現システムを利用したRCNMV増殖関連遺伝子のスクリーニングでもポジティブな結果を得られたことから、今年度と来年度で遺伝子抑制による影響を評価することでスクリーニングを終了出来ると考えている。MPの構造解析においても、コドン変換や培養時間や温度を調整することで、多量のMPを可溶性画分に発現させることに成功しており、全体の進行状況はおおむね順調であると言える。
最近、ウイルスの複製中間産物である二本鎖RNAを生細胞において検出できるB2-GFP発現形質転換Nicotiana benthamiana植物を海外のグループが作製し、報告した。申請者はこの種子を分譲され、RCNMVを接種して調べたところ、ウイルス複製複合体と思われる細胞表層の小斑点状構造を容易に検出することが出来た。また予備実験の段階ではあるが、RCNMV RNAを配列特異的に検出するPUMILIOシステムを導入してウイルスRNAの局在を生細胞で調べることが出来る目途がついている。これらのウイルスRNA検出システムを利用して、細胞内局在性が変化した各種のMP変異体とウイルスRNAとの局在を同時に検出することで、RCNMVの移行複合体形成過程の解明に繋げることが出来ると考えている。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
Molecular Plant-Microbe Interactions
巻: 31 ページ: 101-111
10.1094/MPMI-04-17-0085-FI
Virology
巻: 509 ページ: 152-158
10.1016/j.virol.2017.06.015
http://www.plant-pathology.kais.kyoto-u.ac.jp/