研究課題
前年度までに申請者は、Red clover necrotic mosaic virus (RCNMV)の移行タンパク質(MP)と相互作用する宿主タンパク質を多数同定し、そのうちProtein Kinase Superfamily Protein(PK)が原形質連絡でMPと共局在することを明らかにした。今年度の研究でPK遺伝子をサイレンシングした形質転換ベンサミアナ植物を作出してRCNMV接種実験を行ったが、PK遺伝子の抑制によってRCNMV増殖は影響を受けないことが明らかとなった。二本鎖RNA結合タンパク質とGFPとの融合タンパク質を発現する形質転換ベンサミアナ植物を利用して、RCNMVの複製複合体(RCNMVの複製中間産物である二本鎖RNAを含む)の形成過程について経時的に調査した。その結果、複製複合体はRCNMV接種5時間後に微細な斑点状構造として小胞体膜近辺に合成され、時間の経過とともに融合を繰り返して20時間後に核と同等の大きさの巨大な構造体を形成することがわかった。RCNMV MPの構造解析に向けて、可溶性画分に大量に発現させたMPの結晶化条件の絞り込みと、細胞内でMPと結合することがわかっているタンパク質を加えての結晶化を試みている。RCNMVと同属のCarnation ringspot virusの配列未同定だった2つの系統の全塩基配列を決定し、感染性クローンを構築した。さらにこれらの感染性には、5'非翻訳領域に形成されるステムループ構造が重要であり、この領域が複製のみならず細胞間移行にも重要な役割を果たすことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
PK遺伝子のウイルス増殖への影響は見られなかったが、形質転換植物の作製と評価方法は確立できた。過剰発現条件下でRCNMVの移行を阻害する4種類の遺伝子のサイレンシング誘導形質転換植物の作出が進行中で今夏~今秋にかけて作出出来る予定である。複製複合体の形成過程の調査では感染初期から後期にかけてのダイナミックな動態を、定量的データを基に明らかにすることができ、予想を超える進展であった。MPの構造解析については、タンパクの可溶性画分への発現誘導には成功したが、結晶化に成功できないでいる。この原因はMPのC末端が非常にフレキシブルで一定の構造を採らないためと考えられる。今年度はC末端を除去したMP(ウイルス移行機能を有することは確認済み)を用いての結晶化を試みる予定である。総じて、予定通りとまでは行かないが概ね順調な進行状況であると言える。
PK遺伝子については、RCNMV感染時特異的な原形質連絡への局在とMPとの相互作用が確実であることから、RCNMVの細胞間移行への関与は間違い無いと考えられることから、他の宿主因子候補タンパク質との相互作用を含めて検討する予定である。また、過剰発現条件下でRCNMVの細胞間移行を阻害したタンパク質については、サイレンシング誘導形質転換植物が作出でき次第、ウイルス増殖への影響を評価する予定である。RCNMV MPの結晶化がどうしても出来ない場合に備えて、二種類の非常に小さな(6~9キロダルトン程度)MPをコードするCarmovirus属のウイルスの研究に着手している。感染性を有する全長cDNA配列の作製、MPの細胞内局在や複製との関連について、RCNMVで行ってきたのとほぼ同様の手順で進める予定である。今年度は2~3種類のCarmovirus属のウイルスのcDNAを作製し、病原性の評価とB2-GFP植物を用いて複製複合体の形成過程について調べる予定である。複製複合体の形成過程の調査に関して、今後は二本鎖RNAとウイルス複製タンパク質との共局在と、感染初期における細胞内局在部位の同定、およびミオシンなどのモータータンパク質や膜輸送システムの阻害剤が及ぼす影響を評価し、MPの各種変異タンパクとの共局在性について評価を進める。
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Virus Research
巻: 265 ページ: 138-142
10.1016/j.virusres.2019.03.009
http://www.plant-pathology.kais.kyoto-u.ac.jp/