研究課題
前年度までに申請者は、Red clover necrotic mosaic virus (RCNMV)の移行タンパク質(movement protein, MP)と相互作用する宿主タンパク質を多数同定しており、これらの中からストレス顆粒の構成因子であるANGUSTIFOLIA(AN)のRCNMV増殖への影響について調査した。その結果、AN過剰発現葉ではRCNMVの細胞間移行が顕著に阻害されることが分かった。ANはストレス顆粒に局在するが、同時にここにウイルス複製中間産物である二本鎖RNAが共局在することから、RCNMVの複製はストレス顆粒と関連しており、且つ細胞間移行と関連することが示唆されるデータを得た。また、複製複合体の形成過程の解明に関して、二本鎖RNAの局在を指標として追跡し、経時的に細胞表層に形成される小斑点状構造が集合して巨大化する様子をタイムラプスイメージングで撮影することができた。また複製複合体形成に移行タンパク質は関与しないが、MP中のαヘリックス構造を欠損させると、MPのみならず複製複合体の凝集が阻害され、両者の共局在性が失われることが明らかとなった。この結果は2019年7月の国際学会(IS-MPMI)IS-MPMIで発表した。さらに、RCNMVの構造解析のための大腸菌での発現条件を設定し、大量発現させることができた。これに宿主タンパク質GAPDH-Aを混ぜることで結晶化の条件を探索している。最後に、RCNMVと同科のカーネーション斑紋ウイルス(CarMV)の全長cDNAクローンの作製に成功し、in vitro転写したウイルスRNAが親株と同等の感染性を持つことを確認した。またCarMV接種植物における二本鎖RNAの細胞内局在を共焦点顕微鏡観察で調べたところ、多数の球状構造を内包した巨大な塊を形成することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
RCNMVの移行に関与する宿主因子の候補としてANを同定できた。これらの発現をRNAサイレンシングによって抑制した形質転換植物が複数ライン得られた。今後はこれらを用いてRCNMVの複製および移行への影響を詳細に調査する予定である。また昨年度までにMPとの共局在性が明らかとなったPKタンパク質については、サイレンシングによるウイルス増殖への影響が見られなかったが、これにさらに別のキナーゼ遺伝子をVIGS法によって抑制した場合に影響が見られないか、調査予定である。PKについても発現抑制形質転換植物が複数系統確立できており、早急に取りかかりたい。複製複合体の形成過程については、二本鎖RNAとMPや複製酵素タンパク質との共局在も明らかとなり、また感染初期には二本鎖RNA局在が小胞体膜と重ならないことや、MP変異体が形成阻害することが明らかとなるなど、予想を超えて進展している。カーネーション斑紋ウイルスのcDNA作製と感染性調査がほぼ終了できたことで、遺伝子操作系が確立された。これらの結果から、総じて順調な進行状況にあると言える。
RCNMV移行関連宿主因子に関しては、PKとANについてそれぞれ複数ラインのサイレンシング誘導植物が得られたので、これらを利用して接種実験を進める予定である。複製複合体の形成過程の解明については、二本鎖RNAの局在が経時的に変化するということが明らかとなったが、これは以前Brome mosaic virusで報告された、複製複合体が核周縁部の小胞体膜を陥没させた多数の袋状構造で形成されるというモデルと大きく異なっている。この点について調べるためには電子顕微鏡を用いてRCNMVの二本鎖RNAが凝集する際にどのような膜構造の変化がもたらされるのか調べる必要がある。現在電子顕微鏡観察を行うべく準備を進めている。また、二本鎖RNAの凝集が複製複合体の形成ではなく、分解産物の凝集によるものではないか、という疑念に答えるべく、各種の分解系反応の阻害剤を用いて二本鎖RNAの凝集に変化が見られるか否かについて調査する予定である。カーネーション斑紋ウイルスについては、移行タンパク質の細胞内局在に関する報告がこれまで全く無い。これについて、ウイルス複製との関連で調べることができるよう、組み換えウイルスを各種準備する予定である。一過的に発現させた移行タンパク質と蛍光タンパク質との融合タンパク質が、移行機能欠損ウイルスの移行をサポートできるようなシステムを構築し、これに続いて移行タンパク質への変異を導入し、変異体解析を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Journal AgroBiogen
巻: 16 ページ: 7-16
http://www.plant-pathology.kais.kyoto-u.ac.jp/