研究課題/領域番号 |
16H04884
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
冨永 達 京都大学, 農学研究科, 教授 (10135551)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 除草剤抵抗性 / グリホサート / グルホシネート / 抵抗性機構 |
研究実績の概要 |
除草剤抵抗性雑草の顕在化は、作物生産に大きな負の影響を及ぼし、世界的に大きな問題となっている。私たちは、非選択性除草剤グリホサートに対して抵抗性を獲得した静岡県内に生育するイネ科雑草ネズミムギ集団の一部が、グルホシネートに対しても抵抗性を有することを認めた。グリホサート及びグルホシネートに同時に抵抗性を示す生物型の出現は、グリホサート及びグルホシネート以外の非選択性除草剤の選択肢が少ないため、作物生産上極めて大きな問題となる。平成28年度は、このネズミムギ集団のグリホサート及びグルホシネート抵抗性機構を明らかにすることを目的とした。 グリホサート散布後も枯死しないネズミムギの種子を採集し、京都大附属京都農場で栽培、採取した種子由来の実生にグリホサートを異なる処理量散布し、生存率を調査した。なお、グリホサート感受性集団(野生型)として栽培品種を供試した。抵抗性集団は、感受性集団の5.4倍の抵抗性を示した。グリホサート抵抗性個体では、グリホサートの標的酵素であるEPSPSにおいてグリホサート抵抗性を付与すると報告されているアミノ酸変異は認められなかった。グリホサートの植物体内への吸収量に感受性個体と抵抗性個体の間に差異は認められず、グリホサートの代謝産物であるAMPAも認められなかった。しかし、非処理部位へのグリホサート移行量が抵抗性個体で少なかったため、移行抑制が抵抗性に関与していることが示された。グリホサートの植物体内での挙動について現在解析中である。 グリホサート抵抗性ネズミムギ集団中に認められたグルホシネート抵抗性個体に関して、グルホシネートの標的酵素であるグルタミン合成酵素遺伝子(GS2)におけるグルホシネート抵抗性を付与すると既に報告されているAspからAsnへの一塩基置換は確認できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
雑草の除草剤抵抗性生物型では、その抵抗性機構により各除草剤に対する抵抗性の程度が異なるため、まず、グリホサート抵抗性ネズミムギ集団の抵抗性の程度が感受性型の5.4倍であることを明らかにした。次に、グリホサートの標的酵素であるEPSPSにおいてグリホサート抵抗性を付与すると他の草種で報告されているアミノ酸変異の有無について確認した結果、抵抗性を付与すると報告されているアミノ酸変異は認められなかった。また、EPSPSの過剰発現も認められなかった。さらに、グリホサート抵抗性個体と感受性個体の間で、グリホサートの植物体内への吸収量に差異は認められず、グリホサートの代謝産物であるAMPAも認められなかった。しかし、非処理部位へのグリホサート移行量が抵抗性個体で少なく、グリホサートの移行抑制が抵抗性に関与していることを示した。 グリホサート抵抗性ネズミムギ集団中に認められたグルホシネート抵抗性個体に関して、グルホシネートの標的酵素であるグルタミン合成酵素遺伝子(GS2)におけるグルホシネート抵抗性を付与すると報告されているAspからAsnへの一塩基置換は確認できなかった。 平成28年度は、おおむね当初計画通り進展している。
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今後の研究の推進方策 |
雑草のグリホサート抵抗性機構に関しては、作用点抵抗性及び非作用点抵抗性の報告がある。平成28年度の研究結果からネズミムギのグリホサート抵抗性は作用点抵抗性ではなく、非作用点抵抗性であることが示された。また、グリホサートの吸収量に感受性型との差はなく、グリホサートの代謝産物であるAMPAも認められなかったが、非処理部位へのグリホサート移行量が抵抗性個体で少ないことが示された。これらの結果は、ネズミムギのグリホサート抵抗性機構が、グリホサートの移行抑制によることを示している。グリホサート抵抗性生物型において、植物体内への吸収後のグリホサートの挙動を明らかにするために、液胞への物質輸送に関わるABCトランスポーターに関わる関連遺伝子をRNA-Seq解析により探索する。 グルホシネート抵抗性に関しては、グルホシネートの標的酵素であるグルタミン合成酵素の活性及びグルホシネートに対する感受性を感受性型と比較し、抵抗性機構に関する知見を得る。
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