研究課題
ファイトプラズマ(Candidatus Phytoplasma属細菌)は昆虫媒介性の植物病原細菌である。植物宿主と媒介昆虫との2つの宿主間を水平移動する「ホストスイッチング」により感染を拡大するが、どのようにして異なる生物界の宿主に細胞内寄生するのか、その分子メカニズムは謎に包まれている。本研究は、ファイトプラズマのホストスイッチング機構を解明することを目的とする。ファイトプラズマは植物-昆虫間の宿主転換に伴い様々な遺伝子の発現を変化させることが研究代表者らの以前の研究より明らかとなっている。その転写制御には、ファイトプラズマに共通して存在するシグマ因子RpoDが重要な役割を担うと考えられていたが、その機能は不明であった。そこで本研究では、難培養性である本細菌の転写制御解析を行う目的で、ファイトプラズマのRpoDを用いたin vitro転写系の確立を試みた。まず、タマネギ萎黄病ファイトプラズマ (Phytoplasma asteris OY strain; OYファイトプラズマ) 由来のOY-RpoDおよび16S rRNA B遺伝子 (rrnB) の上流配列を含むDNA断片、大腸菌由来のRNAポリメラーゼ (Ec-RNAP)、および同位体標識されたNTPを混合し、転写反応を行った。その結果OY-RpoD依存的に転写産物が検出され、OY-RpoDはin vitroでEc-RNAPと複合体を形成し転写活性を発揮することが示された。さらにrrnBの上流配列に変異を導入し同様の解析を行った結果、OY-RpoDによる転写において重要となるプロモーター領域を特定した。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、転写因子の活性を測定する系を確立するとともに、転写因子が結合するプロモーター領域を特定することを計画していた。大腸菌由来のRNAポリメラーゼを利用したin vitro転写系を確立することができたとともに、この実験系を利用してrrnB上流のプロモーター配列を特定することができ、当初の計画を達成できたことから、おおむね順調に進展しているとの評価とした。
ファイトプラズマはRpoDとFliAという2種の転写因子を持ち、植物感染時にはFliA、昆虫感染時にはRpoDの発現量を増加させる。これにより、植物・昆虫それぞれの宿主に寄生するのに必要な遺伝子を転写すると考えられている。一方、植物・昆虫感染時にRpoDやFliAが結合し、遺伝子発現を活性化する転写開始領域およびプロモーター配列は不明である。そこでRpoD・FliAがどのようにホストスイッチングに関わる遺伝子を制御しているのかを明らかにするため、網羅的遺伝子発現解析によって転写開始領域およびプロモーター配列をファイトプラズマのゲノム中から探索する予定である。
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Journal of Experimental Botany
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