研究課題
ファイトプラズマ(Candidatus Phytoplasma属細菌)は昆虫媒介性の植物病原細菌であり、植物宿主と媒介昆虫との2つの宿主間を水平移動するホストスイッチングにより感染を拡大する。昆虫によって媒介される植物病原体は、地球温暖化とともにその感染範囲を拡大させており、こうした病気を防ぐことが近年の重要な課題となっている。近年、日本各地のホルトノキ (Elaeocarpus zollingeri) において、葉の黄化や樹冠透過の症状が見られ、急激に衰弱、枯死する病害が発生している。ホルトノキは街路樹として用いられる常緑樹であると同時に、天然記念物や文化財に指定されている個体も多いが、本病発病により文化財等の指定が解除されるという問題も生じている。そこで、本病防除に役立てるため、沖縄県、徳島県および東京都の罹病樹からDNAを抽出し、病原ファイトプラズマの種を同定した。その結果、16S rRNA 遺伝子の配列はマレーシアで報告されたCandidatus Phytoplasma malaysianum タイプ系統(MaPV)の配列と99%相同であり、ホルトノキ萎黄病の病原ファイトプラズマは同暫定種に分類されることが示された。日本各地のホルトノキ萎黄病ファイトプラズマは、16S rRNA遺伝子の系統樹においてMaPVなど既報のマレーシア系統とは独立した1つのクラスターを形成したことから、MaPVなどと同種ではあるが異なる系統であると示唆された。また西表島のサンプルから増幅されたsecAの配列は他の国内サンプルと7塩基異なるなど、国内サンプル間でも遺伝的多様性が認められた。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度は、近年、日本各地のホルトノキに病害を引き起こしているホルトノキ萎黄病ファイトプラズマの同定を行った。日本各地のホルトノキ萎黄病ファイトプラズマは、マレーシアで発生している系統と同種ではあるが異なる系統であると示唆された。また、日本国内の系統間にも遺伝的な多様性があることが明らかとなった。Ca. P. malaysianumの日本での発生が確認されたのは本研究が初めてである。本研究では地球温暖化の影響によって感染が拡大しているファイトプラズマの生態を明らかにすることを目標の一つとしており、おおむね順調に進展しているとの評価とした。
ファイトプラズマは植物・昆虫の細胞内に寄生し、またペプチドグリカン等の細胞壁を持たないため、ファイトプラズマから分泌されたタンパク質は宿主の細胞質で直接的に機能する。従って、分泌シグナルを持つタンパク質は宿主を操作する因子の最有力候補である。そこで、分泌シグナル部分を取り除いた分泌タンパク質を過剰発現する形質転換植物を作出し、タンパク質を過剰に分泌したのと同様な環境を作り出すことによって、分泌タンパク質が植物に与える影響を解析する。既に機能の一部が明らかになっているPHYL1に加えて、ゲノムにコードされる機能未知の分泌タンパク質についても機構を解析する予定である。
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J. Gen. Plant Pathol.
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https://doi.org/10.1007/s10327-017-0761-4
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