研究課題/領域番号 |
16H04886
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
松村 正哉 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 九州沖縄農業研究センター, グループ長 (00370619)
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研究分担者 |
和田 博史 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 九州沖縄農業研究センター, 主任研究員 (40533146)
平岡 賢三 山梨大学, クリーンエネルギー研究センター, 特命教授 (80107218)
真田 幸代 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 九州沖縄農業研究センター, 上級研究員 (80533140)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 応用昆虫学 |
研究実績の概要 |
品種選好性に関わるトビイロウンカの行動パターンを解明するため,全暗条件下での品種選好過程を赤外線ビデオカメラで撮影し,行動解析した.実験装置に異なるイネ品種を一本ずつ入れ,その中間地点に長翅雌10個体をセットし,イネに取りつく行動を撮影した.同時に,24時間後と48時間後にそれぞれの品種に取りついている個体数を計測した.その結果,24時間後までにイネに取りついた個体は全体の半数に満たなかったが,おおよそ48時間後には7割を超え,比較的長い時間をかけて徐々にイネに取りついていた.ビデオによる行動解析では,最初に取りついた個体が選んだ品種が,その後もより多くの個体に選好されていた. 稲とウンカ代謝産物の相関関係を解明するため,稲やウンカを測定対象に分析できる遠隔質量分析法を適用し,タッチセンサーを組み込んだ探針エレクトロスプレーの開発を進めた. トビイロウンカの圃場における増殖過程の品種間差異とその要因解明に関しては,2014~2016年の3年間のデータ解析から,あと1年間のデータ追加が必要と判断されたため,これまでと同様の調査を2017年にも行った.具体的には,水田における個体数推移調査と,出穂期前後のイネの栄養状態の測定(全窒素,全リン酸含量,ケイ酸含量,非構造性炭水化物(NSC)含量)を行った.その結果,昨年までの傾向と同様に,「にこまる」では「ヒノヒカリ」に比べて,トビイロの第1~第2世代にかけて顕著な密度増加がみられた.稲体成分の分析においても,この時期の穂揃期のNSC含量がトビイロの第1~第2世代にかけての増殖率に関与しており,穂揃期の葉身窒素含量も第2~第3世代にかけての密度増加に関与していた.以上から,穂揃期の茎における高いNSC蓄積量という特性が,「にこまる」でトビイロの後期発生量が多い原因である可能性が裏付けられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年までに行っていた選好性実験では,24時間後までの行動解析を行い、最初の個体が取りつくまでに5時間以上かかっていたこと、また24時間後でもイネに取りついていない個体が少なくなかったことから、本年度はさらに48時間後まで実験を継続し,行動を解析した.その結果,24時間後までに取りついた個体は平均して40%程度で半数に満たなかったが,48時間後では70%以上の個体がイネに取りついていた.その間に特に活動が活発になるような時間帯を検出することはできず,比較的長い時間をかけて徐々に取りついていることが明らかになった.一方で,赤外線ビデオカメラによる解析では,最初の個体が取りついたイネ品種が,24時間後,48時間後にもその他の個体に選好される傾向がみられ,最初に個体が取りついた品種の重要性が示された. 昨年度までのプレッシャープローブエレクトロスプレーイオン化による甘露分析において代謝産物に品種間差が認められている.オンサイトのイネ匂い成分質量分析では特異的な含窒素化合物が検出されたものの,甘露匂い成分については分子シグナルを観測できなかった.そこで,試料接触を最小限にとどめた上で,イオン化できるよう,タッチセンサーを組み込んだ探針エレクトロスプレーの開発を進め,改良に成功した. トビイロウンカの圃場における増殖過程の品種間差異とその要因解明に関しては,研究開始前の2年間のデータを含めて4年間のデータが蓄積された.次年度は,これらのデータを取りまとめて,トビイロウンカの個体群増殖過程と稲の栄養状態との関連性を解析し,トビイロウンカの水稲生育後期の増殖に出穂期前後の稲体成分が具体的にどのように関与しているかを解明する.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに行った複数個体による選好性実験では,最初の個体が取りついた品種の重要性が示された.また,全暗条件で実験を行っていることから,これらの結果が視覚による手がかりではなく,匂い成分を手掛かりにしている可能性が示された.以上の結果を踏まえ,選好性における匂い成分(稲,ウンカの甘露)の効果を解明する.さらに,チョイスチャンバーによる選好性実験では,昨年度と同様の複数個体に選好させる条件に加え,1個体のみに選考させる条件を設定し,個体間相互作用が選好性に影響するかをさらに詳しく検証する.これらの結果を取りまとめて,トビイロウンカが選好する品種の特性と,それにかかわる個体間相互作用の効果について解明する. 甘露成分については,セルプレッシャープローブエレクトロスプレーイオン化質量分析とともに,新規に開発したdipping探針エレクトロスプレー法,シースフロー探針エレクトロスプレー,溶封ガラスキャピラリーエレクトロスプレー法,の3法を用いて詳細な分析を行い,選好性・増殖特性の品種間差に絡んだ稲とウンカ代謝産物を解析する. 昨年度までに得られた,圃場調査によるトビイロウンカ飛来後の経時的な個体数推移のデータ(3年分)と水稲生育後期の出穂期前後の稲体の非構造性炭水化物(NSC)および窒素等の分析データ(3年分)を用いて,トビイロウンカの個体群増殖過程と稲の栄養状態との関連性を解析し,トビイロウンカの水稲生育後期の増殖に出穂期前後の稲体成分が具体的にどのように関与しているかを解明する.また,選好性実験から得られた,選好性に関与する可能性の想定される,稲由来の匂い成分・甘露由来の揮発性物質・甘露不揮発性成分,NSCの関係性,圃場の増殖率に関与する可能性のある稲体成分との関係性について統計学的手法を用いて各パラメーターの寄与率を決定して総合考察を行い,原著論文として取りまとめて投稿する.
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