研究課題/領域番号 |
16H04894
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
五味 勝也 東北大学, 農学研究科, 教授 (60302197)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 麹菌 / アミラーゼ生産 / 遺伝子発現制御 / トランスポーター / 固体培養 / シスエレメント |
研究実績の概要 |
麹菌のMALクラスター内に存在するmalTにコードされている細胞内α-グルコシダーゼのタグ化タンパク質を精製し、マルトースを基質にして反応産物を調べたところ、グルコース以外にもイソマルトースやパノースを生成することが明らかとなり、MalTが糖転移活性を示すことが示された。また、転写因子MalRに存在する2種類の推定核移行シグナル(NLS)のそれぞれに変異導入したGFP融合体を作製し細胞内局在を調べた結果、NLS1に変異導入したMalRとNLS2に変異導入したMalRでは比較的強い蛍光が核に認められるものの菌糸全体にも蛍光が観察された。一方、NLS1とNLS2の両方に変異導入したMalRでは核内に蛍光は観察されなかったことから、NLS1およびNLS2の両配列に変異導入することでMalRの核局在能が失われることが明らかになった。 麹菌flbC破壊株では酸性プロテアーゼの活性が著しく低下し、固体培養特異的な発現を示す酸性プロテアーゼPepAと中性プロテアーゼNptBの遺伝子発現はほとんど認められなかった。一方、アルカリプロテアーゼAlpA遺伝子はflbC破壊株で僅かに発現が上昇しており、興味深いことに、野生株ではほとんど発現が認められなかった中性プロテアーゼNptA遺伝子がflbC破壊株で発現が顕著に上昇していた。中性プロテアーゼでは主要な2つの遺伝子がFlbCによって逆の発現制御を受けており、これがflbC破壊株で中性プロテアーゼ活性に大きな影響が現れない理由であると考えられた。液体培養で構成的にflbCを発現させると、glaB及びpepAの発現が認められるようになり、グルコアミラーゼ活性も上昇することが示された。glaBのプロモーター領域を用いたFlbCのゲルシフト解析により、当初予想していたGCボックスとは別の配列に結合する可能性が示唆された。 黒麹菌のアミラーゼ生産制御ならびに固体培養特異的な遺伝子発現制御の解析を目的として、amyR、flbC、creAのそれぞれのオーソログ破壊株を作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
麹菌でHis-tag付加したMalTを精製して、イソマルトースへの糖転移活性を明らかにした。また、MalRの核移行シグナルを明らかにした。FlbC破壊株と相補株の解析から、FlbCがglaBだけでなく酸性プロテアーゼ遺伝子pepAと中性プロテアーゼ遺伝子nptBの固体培養における発現を正に制御していること、逆にもう一方の中性プロテアーゼ遺伝子nptAの発現を抑制しているという興味深い結果を得ることができた。また、ゲルシフト解析により、当初予想したGCリッチ配列とは異なる配列に結合する可能性があることを認めた。さらに、黒麹菌のamyR, flbC, creA破壊株を得ることができており、次年度の解析実験のための基盤が確立できた。一方、イソマルトーストランスポーターとレセプター候補については、ゲノム情報から可能性のある遺伝子の抽出だけにとどまった。以上のように、一部は未達の課題はあるものの、研究はおおむね順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
1)AmyR活性化基質のイソマルトースの細胞内輸送に関わるイソマルトーストランスポーターとイソマルトースのセンシングに関わるイソマルトースセンサーをゲノム情報と変異株スクリーニングから特定し、遺伝子破壊やアミノ酸置換変異などによりその機能を明らかにする。 2)細胞内および細胞外α-グルコシダーゼのイソマルトース変換に及ぼす寄与について解析することにより、AmyR活性化への関与を明らかにする。 3)転写因子FlbCが結合するシスエレメントをゲルシフトアッセイとChIP解析などにより同定するとともに、AmyRとの相互作用を調べることで協調的な発現制御機構を明らかにする。 4)黒麹菌においてAmyRとFlbCの遺伝子破壊株を用いて、アミラーゼ生産への影響を解析するとともに、AmyRの活性化とFlbCの機能を調べることにより、麹菌とA. nidulansのアミラーゼ生産制御機構との相違の有無を明らかにする。
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