研究課題/領域番号 |
16H04899
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
廣田 隆一 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (90452614)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | リン還元 / ホスホン酸 / 亜リン酸 / 酸化還元 |
研究実績の概要 |
今年度は直接的リン還元経路の解析を中心に研究を進めた。イリノイ大学との共同研究で作製したホスホン酸合成能を持つバクテリアデータベースは、ホスホン酸生成の鍵酵素であるホスホエノールピルビン酸ムターゼ(PepM)の有無を指標に主に放線菌からスクリーニングしたものから構成されている。ホスホノスリキシンはSaccharothrix属細菌が産生するホスホン酸であるが、その合成経路は不明である。ホスホノスリキシン陽性株のPepM遺伝子配列をもとに検索を行った結果、既知のホスホン酸生成経路とは異なると考えられるホスホン酸合成系遺伝子群を有する菌株のクラスターが存在することを見出した。このクラスターに存在する11株は高度に保存されたpepMオペロンを有していることが明らかとなった。ホスホン酸合成においては、ホスホノピルビン酸を熱力学的に安定させるPepMに続く反応が経路の運命を決定づける重要な反応となるが、今回見出された11株は全てこの反応に関わると考えられる新規のデヒドロゲナーゼを有していることが明らかになった。今後、このグループのバクテリアの分布をデータベース解析により行う予定である。 リンの酸化経路に関しては、ゲノムデータベースに登録されているバクテリアにおいて、亜リン酸酸化に関わる亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PtxD)を有するバクテリアの分布を調べた。その結果、土壌、水圏微生物において新たなバクテリアが見出された。これらのうち新規性の高いものを対象にPtxD遺伝子のクローニングおよび組換えタンパク質発現を行い、その生化学的特徴の概要を調べた。その結果、バクテリアの系統により補酵素の選択性が異なる傾向があることが示唆された。今後、さらに詳細な解析を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リン酸還元経路については、ユニークな性質を有するPepM陽性株を用いてスクリーニングを実施することで、未知のグループのリン還元活性を有するバクテリアが存在することを明らかにした。今後その分布をさらに調べることにより、このバクテリアの一般性が明らかになると期待される。また、これらのバクテリアが有するホスホン酸生成経路には、機能が解明されていない酵素群の存在が示唆されており、生合成化学の見地からも非常に興味深い研究対象となりうると考えている。還元型リン化合物の酸化経路にいては、昨年に続き亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PtxD)を有する新たなバクテリアを見出し、さらにそれぞれの酵素学的機能を明らかにしつつある。亜リン酸酸化系の生理的役割や微生物生態との関連については不明であるため、これらの株の解析により、その知見を得ることができると期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
新たにスクリーニングされたホスホン酸生成バクテリアについて、ホスホン酸の生成経路の解明を進める。特にPepM遺伝子クラスターのアノテーション及び酵素の発現を行い、各タンパク質の機能を調べると共に反応経路の解明を行い、その経路の微生物間における分布を調べる。還元型リンの代謝経路を有するバクテリアについては、これまでの単離株と同様に亜リン酸以外の還元型リン(次亜リン酸、ホスホン酸類)についての資化性を調べる。さらにPtxD保有バクテリアについてはゲノム解析により、代謝経路の遺伝子が水平伝播によって獲得された可能性について検証を行う。また、還元型リン化合物の取り込み能力や代謝酵素の酵素学的性質をもとに、微生物生態学的な重要性(環境中におけるリン化合物の濃度と増殖、生存への影響)に関する考察を進める。
|