研究課題
糖非発酵性グラム陰性細菌は、ブドウ糖ではなく、蛋白質やペプチドをエネルギー源とする。近年同定されたS46型ペプチダーゼ類は、ヒトに存在しないジペプチジルペプチダーゼであり、細菌のペリプラズムにおいて、他のペプチダーゼ類と協調的に種々のペプチドを分解している。本研究は、新規作用機序の抗菌剤を開発するため、歯周病に関与する慢性歯周炎原因菌Porphyromonas gingivalisや根尖性歯周炎原因菌Porphyromonas endodontalisあるいは多剤耐性菌として悪名高いStenotrophomonas maltophilia等の糖非発酵性細菌が持つS46ペプチダーゼ類に関する生化学的解析や立体構造解析、in silico, in vitro両面での阻害剤探索と酵素/阻害剤複合体の立体構造解析に基づく阻害剤の構造最適化研究を展開するものである。平成29年度は、28年度にin silicoスクリーニングにより見出したPorphyromonas gingivalis由来dipeptidyl peptidase 11(PgDPP11)に関し有意な阻害能を有する化合物(化合物X)とPgDPP11との複合体の結晶化に取り組んだ。その結果、国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」を利用した高品質結晶生成実験により、PgDPP11と化合物Xとの複合体の結晶化に成功した。X線結晶構造解析の結果、PgDPP11に対する化合物Xの結合様式を解明することができた。化合物Xは、in silicoスクリーニングで予想した通りPgDPP11の活性部位に結合していた(投稿準備中)。また、Stenotrophomonas maltophilia由来dipeptidyl peptidase 7(SmDPP7)の結晶化に取り組み、結晶化に成功した(未発表)。
2: おおむね順調に進展している
上述の様に、PgDPP11に関し、in silicoスクリーニングで得られた化合物XのPgDPP11に対する結合様式を確認することができた。これまで我々は、S46ペプチダーゼファミリーに属するDAP BIIやPgDPP11に関し、いくつかのペプチド類との複合体構造の決定に成功している。しかし、S46ペプチダーゼに対して阻害能を有する非ペプチド性化合物は知られておらず、それらとS46ペプチダーゼ類との複合体構造は得られていなかった。化合物Xは非ペプチド性化合物であることから、ペプチド化合物との複合体の結合情報に加え非ペプチド性化合物の構造情報を得ることは、阻害剤デザインを多面的に展開することに繋がり非常に意義深い。また、PgDPP11とは基質特異性の異なる酵素であるSmDPP7(DPP7:疎水性、DPP11:酸性)に関して結晶化に成功し、構造解析を進めている。従って、非ペプチド性阻害剤候補化合物XのPgDPP11に対する結合様式を解明したこと並びに基質特異性が異なるS46ペプチダーゼであるSmDPP7の結晶化に成功したことは計画2年目の成果として十分であり、進捗状況として「おおむね順調」と評価できる。
平成30年度は29年度と同様にPgDPP7, PgDPP11, PeDPP7, PeDPP11, SmDPP7を対象とし、PgDPP11及びSmDPP7の立体構造情報と各々の酵素の大量調製系に基づき、in silico及びin vitroスクリーニングを出発点として、候補化合物の評価、ヒット化合物及び誘導体の合成、X線結晶構造解析による結合様式確認により次の最適化サイクルへ繋げるという流れで研究を展開し、P1残基特異性の異なる(DPP7:疎水性、DPP11:酸性)各酵素に対する阻害剤開発を目指す。30年度-1.In silicoスクリーニングによる各酵素の新規阻害剤探索とその評価(1)29年度までに見出したPgDPP11やSmDPP7に関する第一世代阻害剤と各標的酵素との複合体結晶を調製し、X線結晶構造解析を行う。(2)(1)で得られた第一世代阻害剤の標的酵素への結合様式に基づき、結合エネルギーなどを考慮して第二世代阻害剤をデザインする。(3)Kurz教授のグループにおいて、第二世代阻害剤を合成する。(4)第二世代阻害剤の標的酵素阻害活性を上記と同様に評価する。(5)第二世代阻害剤と標的酵素との複合体結晶を調製し、シンクロトロン放射光を用いた高分解能結晶構造解析により第二世代阻害剤の結合様式を解明し、構造最適化に繋げる。30年度-2.PeDPP7, PgDPP7, PeDPP11の立体構造解析および新規阻害剤探索とその評価(1)PeDPP7, PgDPP7, PeDPP11の結晶化条件最適化、X線結晶構造解析を実施する。(2)約500万化合物から成る市販化合物ライブラリに対し、in silicoスクリーニングを実施する。(3)(2)で見出された候補化合物群の標的酵素阻害活性を評価する。酵素活性阻害を指標とした生化学的評価と結合強度を指標とした物理化学的評価を併用する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 7件)
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