研究課題/領域番号 |
16H04904
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
北本 宏子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター 物質循環研究領域, ユニット長 (10370652)
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研究分担者 |
釘宮 聡一 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 本部, 上級研究員 (10455264)
田端 純 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域, 主任研究員 (20391211)
光原 一朗 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門・植物・微生物機能利用研究領域, 主席研究員 (80370683)
吉田 重信 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業研究センター・病害研究領域, グループ長 (90354125)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 植物常在菌 / 酵素 / 植物表層 / クチクラ層 / エステラーゼ / キシラナーゼ / クチナーゼ / 病害抵抗性 |
研究実績の概要 |
植物常在菌であるP. antarcticaからエステラーゼPaEを高生産させた培養ろ液を、PaEによる生分解性プラスチック分解活性を基準に8 U/mlに調整した。トマト切り葉に培養ろ液処理後、灰色カビ病菌を接種すると感染が助長された。P. antarcticaの培養ろ液中に顕著に分泌されるPaEとキシラナーゼを、クロマトグラフィーを用いて精製した。上記刺激の原因となる酵素を特定するために、精製酵素を処理したところ、PaE単独およびキシラナーゼ併用処理では発病したが、キシラナーゼ単独処理では病徴が現れなかった。このことから、PaE処理が植物の感染助長を引き起こすと考えられた。病原菌を接種しない実験では、PaE処理により、明らかに葉が縮れたが、キシラナーゼ単独処理では葉に変化が生じないことから、植物の最表の層が、PaEによってダメージを受けることが大きな要因だと推測された。 一方、植物表層のクチクラ層に欠損がある植物変異体が耐病性を示す現象が知られている。この現象が、低濃度のPaE処理でも生じる可能性が考えられた。上記と同じ実験で、PaEを指標に順次0.01 U/mlまで希釈した培養ろ液を処理した場合、1 U/ml以上では感染が助長されたが、0.1 U/ml以下の培養ろ液処理区では酵素処理を行わないコントロール区に比べて、葉の表面で病原菌の発芽率と葉の上の相対的な病原菌のDNA量が、低く抑えられていた。シロイナズナ切り葉に対する低濃度の精製酵素処理後に灰色カビ病菌を接種した場合も、酵素無処理に比べて、PaE、キシラナーゼ各単独処理、併用処理全てで発病が抑えられた。従って、希釈したPaEとキシラナーゼそれぞれを植物に処理した場合に、病害抵抗性増強作用に寄与することが示唆された。シロイナズナに対する精製酵素処理後3日目に、代表的な病害抵抗性遺伝子の発現レベルの確認を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたPaEおよび混在するキシラナーゼを用いて、植物の病害と病害抵抗性の解析を行うための実験系がトマトとシロイナズナで実施可能であることを確認した。植物表層のダメージを生じる大きな要因も、当初予定していたPaEであることを示すデータも取得することができた。シロイナズナを用いて、精製酵素に対する遺伝子応答性も、PaEを用いた場合、濃度依存的な応答性を確認できたので、29年度にマイクロアレイを行う準備を整えた。28年度に計画していた細かな実験の一部は29年度に行うが、基本的な実験系を構築できたので、問題無く実施できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
原則的に当初の計画通りであるが、より具体的な材料と実験方法は以下の通り。 大量に材料が準備できるトマト葉や、クチクラ層が厚いトマトの実から、クチクラ層の抽出を試みる。これらクチクラ層に対し、培養ろ液処理、精製酵素処理によって反応液中にクチンモノマーが遊離してくるかを明らかにする。 シロイナズナに対する精製酵素処理後3日目に、代表的な病害抵抗性遺伝子の発現レベルの確認を行い、マイクロアレイに供するのに適した酵素の種類と濃度を選定する。この処理濃度条件下で、マイクロアレイ解析によるシロイナズナの遺伝子応答の時間変化を網羅的に調べる。特に病害応答や活性酸素応答遺伝子、乾燥ストレス応答等に注目して、応答変化を解析する。 異なる植物種と病原菌の組み合わせで、上記実験の現象を調べる。PaEに構造が似たCryptococcus属酵母の酵素や、PaEと構造は20%程度しか似ていないが、同じように幅広い生分解性プラスチック分解活性を示す糸状菌由来の酵素PCLEについて、植物の病害応答性と、植物クチクラ層分解活性を調べる。PaEを処理した植物葉またはクチクラ層から遊離した成分を植物に処理し、上記と同じ応答が観察されるかを調べ、この現象の普遍性の範囲を確認する。
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