研究課題
植物のイオン輸送体は複数存在することが分かっているが環境変化に適応して複数のイオン輸送体が協奏的に機能する必要がある。それらをコントロールする役割として細胞内タンパク質の調節が考えられているがそれらに関するデータは少ない。本研究ではカルシウム依存性リン酸化酵素関連タンパク質を対象に,細胞膜への移行と輸送体の調節に関する解析を行った。シロイヌナズナの34個の CPKキナーゼと8個の CRK キナーゼに脂質修飾を受けるアミノ酸モチーフが存在している。N 末端のアミノ酸であるメチオニンの後にグリシンが存在するタンパク質を対象とした。2番目のアミノ酸をアラニンに置換したコンストラクトを作成した。さらにミリスチン酸修飾部位の近郊にあるシステイン残基に着目してセリンに置換したタンパク質の構築も行った。これらのタンパク質を小麦胚芽無細胞翻訳系と昆虫無細胞翻訳系の両系で検討を行った。この結果44個のタンパク質のうち40個のタンパク質においてミリスチン酸修飾が観察された。次にパルミトイル化修飾を検出するために CPK6およびCBL5のタンパク質を検討することとした。CPK 6と GFP 融合タンパク質を動物培養細胞であるCOS細胞に導入し局在性を検討した。 その結果,野生体は小胞体もしくはゴルジ体に移行したが,パルミトイル化部位を置換したタンパク質ではこれらの膜に移行せず細胞質に多くが止まることとなった。このことよりパルミトイル修飾も生体膜への移行に重要であることがわかった。次にタバコを細胞に一過的発現を行いこれらのタンパク質の局在性を検討したところ野生株は原形質膜に移行し,置換体は原形質膜以外のところにとどまることとなった。この結果は両脂質修飾が原形質膜への移行を促進することを強く示唆している。 また,K輸送体の膜への移行と組込みを検討し,タンパク質の疎水性も脂質の疎水性も膜挿入に重要である結果となった。
2: おおむね順調に進展している
ミリスチン酸修飾及びパルミチン酸修飾を検討するために,カルシウム依存性タンパク質を対象に研究を行った。40種類の候補タンパク質を全て網羅的に解析することによって確固たる脂肪酸修飾の必要性を明らかにすることを目標に検討を重ねた。無細胞系を用いた解析はほぼ順調に実験が進み明瞭な結果を獲得することができた。一方パルミチン酸修飾反応に関しては動物細胞実験系において原形質膜への移行が期待されたにも関わらず小胞体またはゴルジ体に留まる事例が生じた。しかし,置換体においては,野生体と異なる局在性を示した。さらに,脂質修飾阻害剤を用いた検討においてもパルミトイル化修飾の必要性が確認された。植物細胞を用いた in vivo アッセイにおいて,野生体は原形質膜への移行が観察されたが,置換体は原形質に移行することができなかった。このことは強く両脂肪酸修飾がタンパク質の膜移行に重要であることを示唆している。これにより,脂肪酸修飾は,無細胞系及び細胞を用いた発現系において確認された。植物のタンパク質であるが,植物細胞型利害でも膜への移行が観察されることとなった。このことはミリスチン酸修飾酵素とパルミチン酸修飾酵素が植物と動物において区別なく機能していることを示唆している。
今回の検討から,ミリスチン酸修飾とパルミチン酸修飾が植物および動物の両細胞でほぼ同様に生じることが確認された。このため,次年度以降のカルシウム依存性タンパク質の細胞内移行と輸送体の調節に関する検討において植物細胞および動物細胞の両方を用いることは可能であることが示唆された。植物にはミリスチン酸修飾酵素は2つ遺伝子があるが,1つは十分機能していないと報告されている。1つの本酵素で全てのミリスチン酸修飾を行うことから普遍性が高いと予測される。この点において両酵素は生物の種類の差が小さいことが予測される。これらに基づいてアフリカツメガエル卵母細胞とタバコ細胞及びシロイヌナズナの植物体を用いた両系を用いた検討を行い,脂肪酸修飾されるタンパク質の機能と役割について検討をはかることとした。
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Biochem. J.
巻: 473 ページ: 4361-4372
10.1042/BCJ20160746