研究課題/領域番号 |
16H04907
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上口 美弥子 (田中美弥子) 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 准教授 (70377795)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | プロヘキサジオン / 阻害剤 |
研究実績の概要 |
植物ホルモンであるジベレリン(GA) の生合成酵素の一つとしてGA3-oxidase (GA3ox)が、代謝経路ではGA2-oxidase (GA2ox)が働いており、いずれも2-オキソグルタル酸要求性酸化酵素に属する酵素である。 この酵素群の阻害剤として植物成長調整剤であるプロヘキサジオン (PHX) が知られているが、様々な濃度に対する植物の反応性の違いから、その阻害の程度は酵素によって異なることが推察されている。 そこで申請者は、構造学に基づいた新規阻害剤や進化型の酵素の作製を目的に、GA2ox3およびGA3ox2を用いて、PHXや基質GAとの共結晶化を試みた。 さらに、PHXのターゲットである両酵素の機能を調べるため、ノックアウト変異体イネの変異形質の解析等を通して、植物における構造活性相関研究を行った。 GA2ox3ならびにGA3ox2と基質GAとの共結晶の構造解析を進めた結果、全体構造はそれぞれ4量体、単量体と異なる事が分かった。 さらに、活性中心にも大きな違いが見られ、 GA3ox2の基質であるGA9はGA2ox3の基質GA4とは異なる位置に結合しており、基質と結合するアミノ酸も全く異なる事が明らかとなった。 また、プロモーターGUSによる発現解析および、ノックアウト変異体の表現型調査を行った結果、GA3ox1は成熟前の花粉で発現することでデンプンの蓄積を促進し、花粉の稔性に寄与していることが示唆された。 一方、GA2ox3は節間伸長の抑制や分裂組織で分裂制御に関与する事が示唆された。 これらの結果により、両酵素の植物における機能が明らかとなり、GAの生合成から代謝経路までの一連の機構解明に向けた手がかりが得られた。 さらに、当初には予定に無かった分子動力学シミュレーションによる蛋白質のダイナミクスを解析し、GA2ox3の活性機構ついて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ、PHXとの共結晶においてGA2ox3は、前年度より高分解能の2.4 オングストロームの反射を得て、現在精密化を行っている。 一方、GA3ox2は一次スクリーニング中であるが、基質GA9の場合と類似した条件で結晶が得られる可能性が高く、構造解析も進むと考えられる。 また、プロモーターGUSによる発現解析やCRISPR/Cas9システムによるノックアウト変異体の作出にも成功し、両酵素の植物における機能が明らかにする事ができた。 さらに、GA2ox3の4量体形成・活性相関やイネにおける4量体形成の意義を明らかにするため、得られたノックアウト変異体の種子を用いて形質転換体の作製を進めている。 また、GA2ox3の4量体形成・活性相関については当初の計画より順調に進み、分子動力学シミュレーションによる蛋白質のダイナミクスを解析することができた。 これにより、GA濃度が上昇すると分子間にGAが結合して多量体を形成し、分子間での相互作用による安定化によって酵素反応速度を上げてGA代謝を促進している機構が示唆された。 さらに反応に関与するアミノ酸も特定でき、変異体による酵素活性測定などにより、今後より詳細にメカニズムを明らかにできる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はGA3ox2とPHXとの共結晶化を進め、GA2ox3はさらに高分解能の解析データを得て、PHXとの結合様式を明らかにする。得られた構造からどのような官能基あるいは構造がそれぞれの酵素を阻害するのかをより明確に解析し、モデリング等により酵素の改変や新規阻害剤の開発に有用なデータを提供する。さらに進めば、阻害剤との結合に必要なアミノ酸を特定し、それらを変化させた変異型リコンビナントタンパク質を作製して阻害様式の違いを調べる。 植物における両酵素の構造活性相関に関する研究においては、現時点で形質転換体イネの作製は進んでいるため、順次形質調査を行い、構造解析等の結果を合わせて新規阻害剤の検討を行う。
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