研究課題/領域番号 |
16H04909
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三上 文三 京都大学, 農学研究科, 教授 (40135611)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 構造生物学 / 食糧関連酵素・タンパク質 / アミラーゼ / トランスグルタミナーゼ / 糖転移酵素 |
研究実績の概要 |
タンパク質の機能はタンパク質の構造変化によって発揮される。タンパク質の構造変化を研究する手段としてはX線結晶構造解析が最も有効であるが、タンパク質は結晶中に固定されているために、構造変化を見るためには対象部位の構造変化が結晶中で観察できる結晶を調製し、pHや基質アナログの濃度変化による多数の測定を行って構造変化を定量的に捉える必要がある。一般に行われている凍結結晶の解析では、凍結による結晶格子の縮小の影響や凍結によるpHの変化と凍結保護剤の影響が無視できない場合が多い。本研究では食糧関連酵素としてβ‐アミラーゼ、Aeribacillus 属由来糖転移酵素、プロテイングルタミナーゼを、食糧タンパク質としてS-オボアルブミンとオボトランスフェリンを取り上げ、これらの酵素の構造変化と機能との関連を非凍結法(キャピラリー法)と凍結法を駆使して解明し、その成果に基づいて新機能設計を行うことを目的とした。平成29年度については以下の3つの項目について検討した。 1.ダイズβ‐アミラーゼの触媒残基の変異体(E186AとE380A)と基質であるマルトペンタオースとの複合体の構造変化のpH依存性を非凍結法を用いて調べた。 2.Aeribacillus 属由来糖転移酵素と種々のマルトオリゴ糖(G1~G6およびシクロデキストリン)との複合体の結晶構造を1.8~2.0Åで凍結法により決定して、本酵素はデンプンのアミロペクチンの末端にG3をα1. 6結合で転移することによってデンプンの老化を遅らせる機能があることを明らかにした。 3.プロテイングルタミナーゼ(PG)の活性ポケット入口に存在するAsp154とSer195の変異体作成して、それらの酵素的性質の検討とプロ型酵素について凍結法によるX線結晶構造解析を行い、これらの残基が活性に重要であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.β‐アミラーゼと基質との相互作用を明らかにするために、触媒残基の変異体であるE186AとE380Aと基質であるマルトペンタオース(G5)との結合のpH依存性を調べた結果、E186Aでは、至適pH以上のpHでは-2~+3サイトに連続的に結合するのに対して、pH4以下では-1と+1サイトに硫酸イオンが結合することを明らかにした。一方、E380A変異体では、すべてのpHにおいてG5は-2~+3に連続的に結合するが、pH8以上では-1と+2のグルコース残基の位置が2Å変化することを見出し、そのpH依存性からpKaが8付近の残基が関与することが示され、それは酸触媒のE186のpKaと推定された。以上の結果は、二つの触媒残基が基質のプロダクティブな結合にも重要であることを示している。 2.Aeribacillus属由来糖転移酵素と種々のマルトオリゴ糖(G1~G6およびシクロデキストリン)との複合体の結晶構造を1.8~2.0Åで決定した結果、本酵素とG4との複合体に置いて、G3の還元末端に、結晶中で生じた加水分解反応の生成物であるG1が転移した転移生成物がα1. 6結合していることを見出した。このことから、本酵素はデンプンのアミロペクチンの末端にG3をα1. 6結合で転移することによってデンプンの老化を遅らせる機能があることが明らかになった。 3.プロテイングルタミナーゼ(PG)については 活性ポケット入口周辺の残基が生成物選択性を決定し、その変更により逆反応を触媒する酵素の設計が可能になると考えられている。そこで、活性ポケット入口に存在するAsp154とSer195の変異体を作成して、それらの酵素的性質の検討とプロ型酵素についてX線結晶構造解析を行った。その結果、これらの残基がPGの基質認識に重要であることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
1.アミラーゼの反応機構の解析 β‐アミラーゼの酵素反応の解明においては凍結法とキャピラリー法を用いて種々の変異体とG5との複合体のpH依存性について検討してきた。しかし、変異体を用いた解析には限界がある。そこで、野生型の酵素を用いて、本酵素の弱い阻害剤であるグルコースとの複合体のグルコース濃度依存性と複合体構造のpH依存性について検討する。また、申請者らが長年研究してきたプルラナーゼについても同様の方法論を用いて、プルラナーゼとシクロデキストリン複合体の構造解析を行う。 2.Aeribacillus属由来糖転移酵素ははデンプンの老化防止に産業的に用いられている酵素で、今までの研究によりデンプンの非還元末端からマルトトリオースを切り出し、転移反応によってα1-6結合でデンプンの末端に付加することが明らかになった。本酵素の構造はシクロデキストリン合成酵素と良く類似していることから、両者の精密な比較により本酵素の更なる機能改善が可能になると考えられる。 3.プロテイングルタミナーゼ(PG)の活性ポケット入口に存在する残基であるAsp154とSer195の変異体を作成して、それらの酵素的性質とその結晶構造から、これらの残基の重要性を明らかにした。今後は、触媒残基であるCys156の近くに存在するArg159等の残基の役割について、部位特異的変異と結晶構造解析を用いて明らかにしていく。 4.S-オボアルブミンについては熱安定化とD-アミノ酸の生成との関連を問題のSer残基の変異体の作成と、その結晶構造解析によって明らかにする。
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