研究課題
小腸上皮細胞の約0.4%を占める刷子細胞の分化制御機構と細胞機能は長い間不明であった。我々は、転写調節因子Skn-1aが、味蕾の甘・苦・うま味細胞だけでなく、小腸刷子細胞への運命決定にも必須であることを明らかにした(Ushiama et al., EBioMedicine, 2016)。また、Skn-1欠損マウスでは摂餌量は不変だったが、カテコールアミンの過分泌によって消費エネルギーが増加したために、低体脂肪率を伴う顕著な低体重を示した。以上より、刷子細胞や味細胞を起点とし、脳を介して末梢組織(肝臓・筋肉・脂肪組織など)のエネルギー代謝を制御するという新しい概念を提唱した。さらに、RNA-Seq法を用いて野生型とSkn-1欠損マウス小腸における遺伝子発現プロファイルを比較解析した結果、刷子細胞頂端部に局在するオーファン受容体Xを同定した。一方最近、複数のグループから、刷子細胞が寄生虫に対する2型免疫応答に関与することも報告された。TALEN法を用いて遺伝子Xにフレームシフト変異が導入されたマウスを作出した。離乳後成長期における体重変化を継時的に測定した結果、X変異マウスは同腹仔の野生型マウスと比較して低体重を示した。一方、線虫Nippostrongylus brasiliensis(Nb)感染実験では、一定数のNbを頸背部に注射し、9日後に腸内に残存する匹数を計測した。その結果、Skn-1欠損マウスでは既報の通り多数のNbが残存していたが、X変異マウスでは野生型マウスと同数程度のNbしか検出されなかった。また、X変異マウスでは、線虫感染に伴う刷子細胞数の増加も野生型マウスと同様に観察されたため、遺伝子Xは刷子細胞を介した寄生虫に対する2型免疫応答には関与しないことが示唆された。以上より、X変異マウスは免疫系以外の原因によって低体重を示す可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題の研究計画段階では公表されていなかった寄生虫に対する2型免疫応答という刷子細胞の新たな機能に関して、遺伝子Xの関与について検証することができたから。
高脂肪食摂取条件下でX変異マウスを飼育し、野生型マウスと比較しながら、離乳後成長期における体重変化など表現型を解析する。また、培養細胞発現系を用いたオーファン受容体Xの機能解析については、アッセイ系の構築を試みる。
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