研究課題/領域番号 |
16H04921
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松田 幹 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (20144131)
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研究分担者 |
大島 健司 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (90391888)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 食物アレルギー / 腸上皮細胞 |
研究実績の概要 |
腸上皮細胞により消化・排出されたカゼイン由来ペプチド断片の検出と同定を試みた。前年度の研究では、腸上皮細胞層の基底側培地に放出されたカゼインおよびそのペプチド断片をさらに酵素限定分解して得られたペプチドをnano-LCで分離した後にマトリックスイオン化型の質量分析を用いて検出と同定を試み、カゼインの2種類のコンポーネントに由来する2種類のペプチドの同定に成功した。同定されたペプチドの数と種類が想定より少なかったため、マトリックス型の分析ではイオン化しにくいペプチドが存在する可能性を考え、今年度はイオンスプレー/LC-四重極イオントラップ型の質量分析による同定と相対定量を試みた。精製カゼインのトリプシン消化ペプチドを標準サンプルとして分析し、カゼインの4種のコンポーネントのそれぞれについてポリペプチド全長の半分強の配列をカバーするペプチドの同定に成功した。同定したカゼイン分解ペプチドのプロダクトイオンの情報をもとに同定されたプリカーサーイオンを選抜し、未知ペプチド混合物からカゼイン由来ペプチドを同定、相対定量する方法を構築した。この分析システムを用いて腸上皮細胞層の基底側培地に放出されたカゼインおよびそのペプチド断片について分析した結果、4種のコンポーネントそれぞれに対して設定した2種(総計8種)のペプチドのうち、3種のコンポーネントに由来する総計7種のペプチドを同定することに成功した。一方、鶏卵アレルギー原因抗原であるオボムコイドについても同様に質量分析による検出・同定を試みたが、同定できるペプチドが少なく有効ではなかった。おそらくオボムコイドは5本の糖鎖と9つの分子内ジスルフィド結合を持つため質量分析では同定しにくいと考え、また、上記のようにカゼインでの分析が展開できそうであっため、カゼインに絞って研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多孔性膜上で培養、分化させたヒト腸上皮細胞株Caco-2が細胞内消化して基底側に排出するカゼイン成分について、四重極型質量分析と相対定量解析システムを用いて、カゼインを構成する3種のコンポーネントに由来するペプチド断片の同定と定量に成功したことにより、本研究課題の主目的の主要部分は達成できたと考えている。最終年度において、さらに同定できるペプチドの数を増やし、抗原エピトープとの配列比較解析を進め、研究を完成させられるものと思われる。一方、鶏卵アレルギーの原因抗原であるオボムコイドについては、その結合糖鎖や分子内ジスルフィド結合の問題があり、質量分析が難航している。以上を総合的に勘案しておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.腸上皮細胞基底側に排出されたカゼイン分解断片の同定と定量 昨年度までの研究により、腸上皮細胞に取り込まれた後細胞内消化をうけ基底側に放出されることを明らかにしたが、4種類のカゼインの全てを対象にして定量的質量分析を行ったため、それぞれのカゼイン成分に対して2種類のペプチド断片のみを解析対象とした。その結果、αs1カゼイン、αs2カゼインの一部の断片が細胞内消化を免れて規定側に排出される量的に優勢なペプチドであることを明確に示すことができた。しかし、解析した2種のペプチドはカゼイン成分ポリペプチド全長の10%程度であり、残りの部分の情報が得られていない。そこで、今年度は、4種のカゼイン成分について、全長の大部分をカバーできるようなペプチド断片を対象にして定量的LC-MSプロトコルを作成する。これを用いて、4種のカゼイン成分由来のペプチドを別個にLC-MS解析することで、各カゼイン成分から腸上皮細胞内消化により生成する分解断片ペプチドを網羅的に解析することを目指す。 2.アレルギー患者血清抗体に認識されるカゼイン消化ペプチドの同定 これまでの研究ではポリペプチド全長をカバーするような連続重複合成ペプチドを用いて抗体の結合性が評価されエピトープペプチドが同定されてきた。この方法では末端が固相に固定された10残基程度のペプチドが抗原として用いられるため、必ずしも液相でのペプチドと抗体との反応が反映されていない可能性がある。そこで、液相でペプチドと抗体を反応させ、抗体に結合/捕捉されたペプチドを回収して同定、定量する分析系を確立し、エピトープの同定を試みる。
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