これまでの成果から、腸上皮細胞基底側に排出されたカゼイン(CN)分解断片は、T細胞受容体および/あるいはB細胞受容体(抗体)に結合する抗原エピトープを含み得るサイズであると判断し、アレルギー患者血清抗体が認識するエピトープの存在の有無を調べるために、抗体に結合するペプチドをLC-MS/MSで定量解析する実験系の確立を目指した。アレルギー患者血清とCN細胞内消化産物での本実験の前に、マウス抗血清とCNの酵素消化産物を用いて予備実験を行った。特異性の異なる種々のプロテアーゼによるCN消化産物に含まれる多様なペプチド群のLC-MS/MSでの定量プロトコルを作成した。同時に消化分解ペプチドをCN特異的マウスIgGと反応させ抗原エピトープを含むペプチドを免疫沈降させ、酸性緩衝液を用いてペプチドを抗体から遊離させLC-MS/MSにより同定を試みた。免疫沈降物からのペプチドの遊離と分画の効率が悪いためか、未だ細胞から放出される抗原ペプチドを同定できるレベルの検出感度に到達できていない。この分析系の確立と平行して経口負荷試験陽性(少量の牛乳を飲むことで即時型の症状が誘発される)牛乳アレルギー患者血清(32検体)についてCNおよびそのコンポーネントに対するIgE抗体価を測定し、CNの細胞内消化産物ペプチドと結合するIgE抗体解析に適した血清のスクリーニングを行った。その結果、個体差が大きいものの平均値として、CNに対するIgE抗体価はラクトグロブリンおよびラクトアルブミンのそれぞれ10倍および50倍程度の高値を示し、さらに、as1-およびb-CNがIgE結合の主要コンポーネントであることが明らかとなった。LC-MS/MSによる高感度検出定量系が確立でき次第、これらの患者血清を用いてIgE結合性CNペプチドを分離し網羅的に解析・同定を進める予定である。
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