研究課題/領域番号 |
16H04934
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大手 信人 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教授 (10233199)
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研究分担者 |
大橋 瑞江 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (30453153)
村上 正志 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (50312400)
二瓶 直登 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (50504065)
小田 智基 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (70724855)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / 森林生態系 / 物質循環 / 食物網 / 浮遊粒子状物質 |
研究実績の概要 |
1. これまでに基本的な水・放射性セシウム動態のモニタリングを実施している福島県北部の森林サイト(上小国川源頭部集水域:集水面積14ha)を対象に、放射性セシウム(Cs)移動量観測を実施した。降下物(林内外雨)、渓流水、樹冠部生葉、リター、土壌、渓流水中の浮遊土砂等を定期的に採取し、各試料の放射性Cs濃度を測定した。放射性Cs濃度測定は東京大学農学生命科学研究科放射性同位元素施設で実施した。 2.植物-林床/土壌間の放射性Cs内部循環量を把握する。 リター層表層への放射性Cs供給量と、リター層から鉱物質土壌層への移動、それらの空間分布の形成要因を把握するために、調査地スギ人工林部分に、6 m×15 m のプロットを設定し、リター層、土壌、その範囲の立木の樹冠部生葉試料採取、放射性Csの濃度測定を実施した。 3. 森林-渓流生態系における生物群集の食物網中の放射性Cs拡散状況をモニターした。対象とした生物種は、1)森林斜面部:植物、菌類、植食者、落葉、腐食食者、捕食者、2)渓流部: 藻類、落葉、消費者、捕食者であった。これらの生物試料を機能群ごとに採取した。採取した生物試料はすべて放射性Cs濃度を測定し、食物網のどの段階に影響が及んでいるかと生物濃縮の傾向の有無を調べた。 4.森林バイオマス調査と立木サンプリングを行う。 森林生態系レベルの放射性Cs現存量を把握するために、代表的な林分に20×20mのプロットを設定し、毎木調査を実施した。加えて、代表的な樹種の立木試料を採取し、生葉、樹皮、枝、幹の材(辺材・心材)の放射性Cs濃度を測定するために、落葉広葉樹林分から3個体、スギ人工林分から1個体、成熟した立木の伐倒・サンプリングを実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記、研究実績概要に示したように、現地森林サイト、渓流・河川におけるモニタリング、試料の採取・分析はほぼ予定通り実施できた。定期サンプリングによって、渓流からの流出137Cs量の観測期間における推定、生物群集への移行についての全体像の把握をすることができた。この間の観測、調査から得られた知見は、2016年8月に「ABE Initiative/JICA-JDS Program Seminar, Graduate School of Asia-Pacific Studies, Waseda University at Kyoto University」、12月に「American Geophysical Union, Fall Meeting 2016 (San Francisco)」、2017年3月に「早稲田大学レジリエンス研究所、第6 回原子力政策・福島復興シンポジウム『東日本大震災と福島原発事故から6 年~原子力政策と福島復興の今後のあり方を考える~』」、「第128回日本森林学会大会テーマ別セッション『森林生態系中の放射性セシウム汚染 に関する新たな知見』」などで発表を行った。こうした成果発表が可能なレベルの研究の進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度に実施した調査結果に加えて、補助事業延長後に行った森林バイオマス調査と立木サンプリングを踏まえて、以下のように調査研究を展開する。 1. 森林渓流からの放射性Csの流出過程のモニタリングを継続し、特に、降雨イベント時の急激な土砂流出に伴う下流への放射性Csの流出に関する調査に重点をおいて研究をするめる。具体的には、データロガーを用いた渓流濁度の常時モニタリング。降雨イベント時の集中的な渓流水サンプリングを実施する。上記に加えて、森林内の斜面部から渓流への林床での放射性物質の移動に関する調査を実施する。 2. 森林内、渓流、中流河川における生物相における放射性Csの分布と濃度を把握し、放射性物質降下直後(2012年)からの変化を明らかにする。このために、 下記の生物試料を採取、炭素・窒素の安定同位体比を測定し、各機能群の平均的な栄養段階を評価する。森林サイトでは渓畔の草本、木本の生葉、植食性昆虫、土壌動物、クモ類、トカゲ・ヘビ類、鳥類。渓流・中流河川部では、 河床の藻類、水生植物、流下有機物(落葉等)、水生昆虫、エビ・カニ類、魚類 3. 水文過程・生物群集における137Cs流出現存量モニタリングのデータベースを構築する。上記データは整理後JaLTER(日本長期生態学研究ネットワーク)データベースサーバに格納していく。 4. 調査地の住民の方々に向けて、これまでの調査結果や、研究によって得られた知見を伝えるための会合を、住民の方々と協議しつつ開催する。
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