研究課題/領域番号 |
16H04935
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平井 伸博 京都大学, 農学研究科, 教授 (00165151)
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研究分担者 |
山田 明義 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (10324237)
田中 千尋 京都大学, 農学研究科, 教授 (60263133)
服部 武文 徳島大学, 大学院生物資源産業学研究部, 准教授 (60212148)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マツタケ / 抗菌物質 / シュウ酸アルミニウム / 菌根 / アカマツ / リン酸 |
研究実績の概要 |
1) シュウ酸アルミニウムの構造活性相関:シュウ酸分子の配位数を1、2、3と変化させたアルミニウム錯体の抗菌試験の結果、活性は1分子配位体が最も強く、次いで2分子配位体であった。3分子配位体はほとんど不活性だった。この結果は、同錯体の活性発現にはアルミニウムの空き配位が必須であることを示している。 2) 微生物の同定とシュウ酸アルミニウム感受性:シロの先端および内外より採取した微生物の密度測定と主要微生物の同定を行った結果、シロ先端部の微生物密度はシロの内側と外側よりも有意に低いことを確認した。各領域の微生物種は異なる傾向にあり、シュウ酸アルミニウム感受性菌の存在比率もシロ外側次いで内側が高く、シロ先端部から単離された微生物は全て耐性を示した。このことは、マツタケ菌はシュウ酸アルミニウムの抗菌作用を利用して競合菌を駆逐することによりシロを維持拡大していることを支持している。 3) シロにおけるマツタケ菌体およびシュウ酸アルミニウム、抗菌活性、微生物、シュウ酸、可給態リン酸の分布:シロ先端部とシロ内外におけるこれらの分布を調べた。その結果、マツタケ菌体量はシロ先端部で高く、内側では低く、外側には検出されなかった。シュウ酸アルミニウムなどその他の因子はすべてマツタケ菌体の分布と正の相関を示した。このこともシロの維持拡大におけるシュウ酸アルミニウムの役割と一致していた。 4) アカマツ苗のマツタケ菌根形成:長野県内2カ所のシロ発生地より採取した花崗岩質土壌を用いて菌根合成の予備試験を行い、菌根が形成されることを確認した。うち1カ所より本試験用土壌を調製した。 5) マツタケ菌のシュウ酸生合成解析:研究分担者所有のマツタケ菌株より、シュウ酸生合成酵素をコードするcDNAを2種、各組換え粗酵素の活性を確認することによりクローニングした。さらに、シュウ酸が培地に蓄積する菌糸培養条件を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に計画したことの約80%は実施できた。 なおシロ土壌におけるシュウ酸アルミニウムや微生物などの分布を調べる研究では、極めて不均一な土壌が分析対象であるため、複数箇所をサンプリングして統計処理を行うということは困難であった。このため、できるだけ分布の傾向を把握するために、異なるシロを対象とする方法に変更した。 シロ先端部の土壌に糖が存在することを見出だした。その含量や季節変化の分析は平成29年度に行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
1) 各地のシロの分析:シュウ酸アルミニウムがマツタケシロの抗菌物質であることをより普遍的に証明するために、濃度の季節変化だけでなく、各地のシロにおける分布を調べる方針である。マツタケシロが貴重であるためそのサンプリングに困難が予想されるが、各地のマツタケ研究者に協力を要請する。 2) シロに含まれる糖の分析:マツタケシロの先端土壌に糖が含まれることが判明したので、シロ先端における糖濃度の季節変化を分析する。 3) シロにおけるマツタケ菌体量の促進:シロに糖とシュウ酸を投与し、マツタケ菌体量の増加を試みる。 4) アカマツ苗のマツタケ菌根形成:昨年度に調製した土壌を用いて、シュウ酸、リン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム添加条件下(合計約20実験区)で菌根合成を行い,マツタケのシロ形成とシュウ酸アルミニウム生成の関係を明らかにする。これら化合物の添加がシロ増殖に及ぼす影響についても明らかにする。 5) 培養菌糸のシュウ酸生合成解析:シュウ酸生合成酵素の酵素化学的性質を明らかにする。さらに、シュウ酸が培地に蓄積する菌糸培養条件で、シュウ酸生合成関連酵素をコードする遺伝子の発現を解析し、本条件下でのシュウ酸生合成機構を明らかにする。
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