研究課題/領域番号 |
16H04943
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
津山 幾太郎 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (80725648)
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研究分担者 |
松井 哲哉 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (20414493)
江田 真毅 北海道大学, 総合博物館, 講師 (60452546)
比嘉 基紀 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 講師 (60709385)
西海 功 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (90290866)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 潜在生息域 / 古文書 / 遺跡 / 集団遺伝構造 / 分岐年代 / 分布変遷 / 温暖化 / 脆弱性評価 |
研究実績の概要 |
生息状況および生息環境に関する調査については、長野県環境保全研の堀田氏を中心に、北アルプス、南アルプスなどの山岳において、予定通り実施した。高山植生の分布とニホンライチョウの潜在生息域の推定については、高山植生帯の分布を気候変数で説明するモデルを構築し、現在と過去(約6000年前のヒプシサーマル期、約21000年前の最終氷期最寒冷期(LGM期))について、高山植生帯の潜在的な成立域(潜在成立域)を予測した。その結果、LGM期は現在より、高山植生帯の成立に好適な環境が広く、北海道から本州にかけてより連続的に分布していた。一方で、現在よりやや温暖だったとされるヒプシサーマル期は、現在と同等かやや縮小していたことが示唆された。 遺跡資料の収集と化石の遺伝解析については、日本列島の遺跡として唯一ライチョウの骨が報告されていた草刈遺跡(千葉県市原市・縄文時代後期)および、エゾライチョウの骨が報告されていたテンネル1遺跡(北海道釧路町・縄文時代後期)から出土した資料を調査し、標本がライチョウのものかどうかを検討した。既存報告書の調査では、東北地方と関東地方の遺跡を中心に約100遺跡を調べた。 遺伝解析については、ライチョウのミトコンドリアDNA調節領域(CR)の分析によって、南アルプス集団の他集団からの分岐年代推定を試みた。これまで226個体のCR分析によって6つのハプロタイプが知られているが、新たに6個体のCR全領域を分析した。その結果、南アルプス集団は他集団と5,400~13,000年前に分岐したことが推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ライチョウの生息状況調査と分布情報のデータベース化:生息状況調査については、当初の計画通り、北アルプスや南アルプス南部において実施することができている。分布情報のデータベース化についても、予定通り進んでいる。 遺跡資料の収集と化石の遺伝解析:遺跡資料の収集については、全国を対象に、発掘調査に関する資料収集とデータベース化を予定通り進めることができている。過去にライチョウまたはエゾライチョウと同定された遺跡由来の骨の分析も、予定通り進んでいる。 マイクロサテライトDNAを用いた遺伝解析:解析対象の個体数を増やしながら、個体群間の分岐年代の推定を進めており、当初の予定以上の成果が得られている。 高山植生の分布とニホンライチョウの潜在生息域の推定:GISベースの植生データのアップデートや、高解像度な地形データの構築、気候シナリオの整備などを進め、それらに基づいて気候から高山植生帯の潜在的な成立域を高精度で予測する生態ニッチモデルの構築に成功した。このモデルにより、ライチョウの分布変遷を解明する上で基盤となる、過去から現在にかけての高山植生帯の分布変遷を予測することができた。以上から、本パートにおいても、ほぼ予定通りに進められていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1. 生息状況調査と既往の分布情報のデータベース化: 前年度に引き続き、踏査による生息状況および生息環境の調査と、既往文献等の資料から分布情報のデータベース化を行う。生息調査は、分布南限の南アルプス南部を中心に行う。引き続き、長野県環境保全研究所の堀田と共同で行う。 2. 遺跡資料の収集と化石の遺伝解析: ニホンライチョウの骨標本の調査を進めるとともに、北海道内の遺跡から出土したキジ科鳥類の資料を中心に調査し、ライチョウの骨が出土していないかを検討する。 3.マイクロサテライトDNAを用いた遺伝解析: 昨年度明らかにした地域個体群間の分岐年代推定値の幅が大きいため、サンプルサイズを増やすことでより正確な分岐年代を推定する。 4. 高山植生の分布とニホンライチョウの潜在生息域の推定: 将来の高山植生の分布予測を行い、それに基づいて将来のライチョウの潜在生息域を明らかにする。この結果を遺伝解析と合わせて、温暖化に対する地域個体群の脆弱性を評価し、優先的に保全すべき集団や逃避地となる場所を明らかにする。分布変遷の解明についても、予測モデルの精緻化を行うとともに、遺伝解析や化石情報と併せて総合的な分析を進める。
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