研究課題
本研究では、温暖多雪森林流域に流入する大気由来硝酸の動態を解明することを目的とした。このため、大気由来硝酸のみ特異的な値を示す硝酸の三酸素同位体組成という新指標を導入し、大気由来の硝酸と森林内で生産された硝酸を区別し、積雪・融雪期も含めた森林流域内における動態を定量的に明らかにした。また、森林流域において積雪・融雪がもたらす森林生態系内における窒素循環や、系外へ流出する硝酸への影響を明らかにすることを目的とした。本試験流域における硝酸の三酸素同位体組成は降水において20~32‰の範囲の値を示し、夏期に低く冬期に高い季節変動を示した。これはNOxの大気酸化反応におけるOHラジカルの寄与とオゾンの寄与が季節変動している事を示していた。また、森林樹冠を通過し林床に到達した大気由来の硝酸は林床の堆積有機物層を通過する際に夏期には活発な硝化反応により急激な同位体組成の変化が確認されたのに対し、冬期(積雪期)には夏期の様な同位体組成の変化は見られず、林内に堆積した積雪底面からの寒冷な融雪水によって、堆積有機物層内での微生物硝化反応が阻害され大気由来硝酸が林床通過後も多く存在していることが明らかになった。一方、地下水および流出水の三酸素同位体組成の値は降水のような季節変動はなく、年間を通じて2‰前後の一定の値を示した。また、夏期と融雪期の出水イベント時の森林流域からの流出水に含まれる三酸素同位体組成の継時的変化を比較したところ、寒冷地域の融雪期に見られる鋭いピーク状の硝酸濃度変化に伴うような同位体の変動は見られなかった。しかしながら、融雪期では夏期に比べると地下水と流域からの流出水の同位体の値の差が大きい傾向がみられ、融雪期の流域からの窒素流出に関する直接流出の寄与が示唆された。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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応用水文
巻: 31 ページ: 98-103
巻: 30 ページ: 49-54