研究課題
本研究では,深刻な環境汚染物質であるビフェニル/PCB (polychorinated biphenyl) を分解する Pseudomonas 属及び Rhodococcus 属細菌に注目し,そのゲノム情報やプロテオミクスからの発現情報を基に菌の育種を通じてリグニン分解生成物からの有用芳香族化合物生産を目指すことを目的としている.今年度は,ゲノム解読した 12 菌株のビフェニル/PCB 分解細菌において,特に芳香族化合物分解系遺伝子に注目し,これらの菌株のゲノム情報を精査した.その結果,リグニンの分子間結合の内,約 50% を占める最も主要な結合であるベータアリルエーテル型結合の開裂に関与する候補遺伝子を 3 個発見した.次に,これらの遺伝子を大腸菌にクローニングして強力な発現系を用いて発現させることに成功した.また,植物細胞壁の多糖とリグニンとの結合を開裂する遺伝子のスクリーニングも行い,同じく 12 菌株のゲノムより候補となる遺伝子を 7 個発見した.一方,様々なリグニン由来の芳香族化合物を基質として,12 菌株で最も多くの化合物を分解・資化できる菌株を選抜した.その菌を任意の芳香族化合物の存在下及び非存在下で培養して得られた菌体内タンパク質を蛍光波長の異なる蛍光物質でそれぞれ蛍光ラベルし,混合して二次元電気泳動を行う方法を確立した(蛍光ディファレンスゲル二次元電気泳動法).本方法を用いると,添加した芳香族化合物によって発現が誘導,或いは,抑制されるタンパク質をゲルイメージ上で色分けすることで視覚的に捉えることができ,興味あるタンパク質のスポットを優先的に選択して質量分析及び同定することが容易になった.なお,発現が誘導されたタンパク質の多くは,芳香族化合物分解に関与するタンパク質(酵素)であった.
2: おおむね順調に進展している
ビフェニル/PCB 分解菌 12 菌株のゲノム情報の精査はすべて終わっていないが,リグニン分解生成物の代謝に重要なベータアリルエーテル型結合の開裂に関与する候補遺伝子を発見することができた.また,ゲノム情報を合わせてプロテオミクスにより様々なリグニン由来の芳香族化合物によって誘導される酵素(遺伝子)をスクリーニングできるようになった.特に,実際に添加した基質によって誘導発現しているタンパク質(酵素)を同定しやすくなった.以上は,有用な芳香族化合物の生産のための環境汚染物質分解細菌の育種において重要な情報となると考えられる.
今後も引き続き,12 菌株のゲノム情報を精査し,有用な芳香族化合物分解系遺伝子の探索を試みる.また,今回発見したベータアリルエーテル型結合の開裂に関与する候補遺伝子については,大腸菌だけでなく,同属・同種においての発現を試み,機能解析を行う予定である.さらに,DNA 配列や BLAST 解析だけでは機能が未知となる遺伝子でも,プロテオミクスの結果においては発現が誘導されている遺伝子も少なくないと思われることから,今後もリグニン由来の芳香族化合物を添加することで特に発現が誘導されるタンパク質(酵素)の同定を行っていく予定である.
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Genome announcements
巻: 5 ページ: e01624-16
10.1128/genomeA.01624-16
Sustainable Humanosphere
巻: 12 ページ: 5