研究課題
本研究では,深刻な環境汚染物質であるビフェニル/PCB (polychlorinated biphenyl) を分解する Pseudomonas 属及び Rhodococcus 属細菌に注目し,そのゲノム情報やプロテオミクスからの発現情報を基に菌の育種を通じてリグニン分解生成物からの有用芳香族化合物生産を目指すことを目的としている.今年度は,リグニンの複雑な構造において主要な結合であるベータアリルエーテル型結合の開裂に関与する 3 種類の遺伝子について発現解析を試みた.前年度までに大腸菌の強力な宿主ベクター系での発現に成功していたが,可溶化しにくいという欠点があった.そこで,今回,Rhodococcus 属細菌を用いたところ,高発現かつ可溶化発現に成功した.また,活性も保持していたことから,今後のビフェニル/PCB 分解細菌での発現や分子育種の際に有用な遺伝子を取得できたものと判断した.また,前年度までに植物細胞壁多糖とリグニンとの結合を開裂すると推定される 7 種類の遺伝子をビフェニル/PCB 分解細菌から発見していたが,配列を精査した結果,開始コドンの違いや欠失等が見つかった.これらの遺伝子のいくつかはビフェニル/PCB 分解細菌では発現しない(していない)可能性が示唆された.さらに,これまでに行ってきたプロテオミクスによるリグニン分解生成物添加時及び非添加時に同定された発現タンパク質を精査した.その結果,芳香族化合物の分解や代謝に直接関わる酵素だけでなく,リグニン分解生成物によって誘導発現はしないものの物質(基質)の輸送に関わる酵素等も多く同定されていることが分かり,効率良く有用な芳香族化合物を生産するための基礎知見を得ることができた.
2: おおむね順調に進展している
リグニン分解生成物の代謝に重要なベータアリルエーテル型結合の開裂に関わる 3 種類の酵素遺伝子を高発現かつ可溶化発現させることに成功した.これらは,リグニンやその分解生成物を他の芳香族化合物に変換する際,初発の酵素として重要と考えられる.これらの酵素とビフェニル/PCB 分解細菌が持つ様々な芳香族化合物分解・代謝系との組み合わせで有用な芳香族化合物が生成する可能性が期待できる.一方,予備的ではあるが,バイオパルピング等で利用される白色腐朽菌の遺伝子を Rhodococcus 属細菌において高発現かつ可溶化発現できることも分かった.リグニンを始め,木質バイオマスの分解に関わる白色腐朽菌の多くの遺伝子をビフェニル/PCB 分解細菌の分子育種の際に利用できる可能性が高まった.
本年度は,前年度に取得したベータアリルエーテル型結合の開裂に関わる 3 種類の酵素の機能解析を行い,実際にリグニンのモデル化合物や木質バイオマス等に対して活性を有するか,そして,産物として何が得られるのかを確かめる.一方,植物細胞壁多糖とリグニンとの結合を開裂することも重要である.引き続き,ビフェニル/PCB 分解細菌のゲノム情報から多糖とリグニンとの結合を開裂する酵素遺伝子の探索及び発現を行う.また,木材腐朽菌等の糸状菌由来のリグノセルロース系バイオマスの分解・代謝に関わる酵素遺伝子をビフェニル/PCB 分解細菌内で発現させることも試みる.以上の研究で得られた結果を有用芳香族化合物生産のためのビフェニル/PCB 分解細菌の育種に繋げる予定である.
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