研究課題/領域番号 |
16H04954
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河本 晴雄 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (80224864)
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研究分担者 |
坂 志朗 京都大学, エネルギー科学研究科, 名誉教授 (50205697)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 木材 / バイオマス / 熱分解 / 分子機構 / 相互作用 / ヘミセルロース / リグニン / セルロース |
研究実績の概要 |
平成28年度までの研究で、マトリックスを形成するヘミセルロースとリグニンの化学構造の異なる針葉樹と広葉樹をそれぞれ5樹種用い、ウロン酸基(ヘミセルロースのキシランに結合)とアセチル基(広葉樹ではキシランに、針葉樹ではグルコマンナンに結合)の含有量が広葉樹において針葉樹と比べて高いこと、ウロン酸と塩を形成していると考えられる無機成分(主にK+, Ca2+)の影響などを明らかにしてきた。特に、木材中のウロン酸塩が塩基性触媒として作用し、その脱塩物(ウロン酸塩はウロン酸に変化)中のウロン酸が酸性触媒として作用することで、木材の熱分解反応が変化することを明らかにした。また、これらの構造が多く含まれる広葉樹でその影響が大きいことが示唆された。
平成29年度の研究では、このようなウロン酸の影響をさらに詳しく調べる目的で、ウロン酸の結合しているヘミセルロースであるキシランに着目した研究を行い、以下の成果が得られた。市販のキシランをNMR、SEM-EDXA、原子吸光などを用いて分析することで、その中に含まれるウロン酸基、無機カチオンを定性、定量分析することで、ウロン酸基の含有量を求め、その大部分がNa塩として存在していることを明らかにした。脱塩処理キシランと比較して、TG/DTG分析を行った結果、Na塩では260℃と310℃に2つDTGピークを示したのに対し、フリーのウロン酸を持つものDTGピークは290℃に一つのみ認められることが分かった。また、同様の加熱条件で処理した残渣中のウロン酸およびキシロース構造の残存量を求めた結果、Na塩の260℃での熱分解では主にウロン酸基が熱分解されることを明らかにした。さらに、熱分解―GC/MSを用いた検討から、熱分解生成物の組成がフリーのウロン酸を持つキシランとNa塩を含むもので大きく異なり、これらの生成物がそれぞれ酸および塩基触媒に起因することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
木材の細胞壁は、結晶性のセルロースがヘミセルロースとリグニンよりなるマトリックスにより取り囲まれた複層構造を持つ。したがって、細胞壁構造を考慮した分子機構の解明は木材の熱分解を理解する上で極めて重要であるが、ほとんど明らかになっていない。このような背景から、本研究課題では、細胞壁構造を考慮した熱分解分子機構の解明を目指す。
これまでの研究により、細胞壁微細構造の影響因子として、ヘミセルロースのキシランに結合したウロン酸とその塩が重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。また、これらの含有量が針葉樹と広葉樹で異なることから、これが樹種による熱分解特性の違いにつながっている可能性が示唆された。さらに、キシランに焦点を絞った研究から、ウロン酸とその塩が熱分解反応にそれぞれ酸およひ塩基触媒として作用していることが明らかになっている。このような理由で、本研究は研究目的の達成に向けて順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、平成29年度の研究を継続するとともに、キシランとリグニンあるいはセルロースを混合した試料の熱分解挙動を調べることで、キシラン中のウロン酸およびその塩がこれらの熱分解に及ぼす影響を明らかにする。また、リグニンあるいはヘミセルロースを除去した針葉樹(スギ)と広葉樹(ブナ)の熱分解挙動などと併せて検討することで、木材熱分解におけるヘミセルロースとリグニンおよびセルロースとの相互作用の詳細を明らかにすることを予定している。
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