研究課題/領域番号 |
16H04955
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
一瀬 博文 九州大学, 農学研究院, 准教授 (00432948)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 担子菌 / シトクロムP450 / テルペノイド |
研究実績の概要 |
本研究では、様々なトリテルペン骨格化合物に担子菌シトクロムP450モノオキシゲナーゼ(P450)を作用させ、様々な有用トリテルペノイドの戦略的合成を可能にする。本年度は、植物型トリテルペノイドの骨格化合物であるルペオールに活性を示す P450 酵素の発掘を目指した。申請者が保有するP450異種発現酵母にルペオール合成酵素を組み込むことで、ベツリン酸等のルパン型テルペノイドが蓄積すると期待された。 ルペオール合成酵素を酵母細胞内で効率的に発現させることを目的として、コドン最適化を施したルペオール合成遺伝子を人工遺伝子として調製した。種々のプロモーターの下流にルペオール合成遺伝子を連結し、酵母細胞内に蓄積するルペオール量を比較することで、発現コンストラクトの最適化を行った。一連の研究により、GAPDHプロモーターを利用した異種発現系を用いることで、ルペオールを効率良く産生する組み換え酵母を獲得することに成功した。続いて、ルペオール合成酵素と糸状菌P450を共発現する酵母を作出し、細胞内代謝物を抽出してGC-MS分析に供した。本年度は、白色腐朽担子菌Phanerochaete chrysosporiumに由来する120種類、褐色腐朽担子菌Postia placentaに由来する184種を対象とした解析を行った。一連の研究において、ルペオール水酸化体を与える7種類の糸状菌P450を同定することに成功した。現在、ルペオール水酸化体の構造決定を進めている。 本年度の研究結果により、酵母細胞内に植物トリテルペノイドの骨格化合物を効率的に産生させることが可能となった。本成果を応用することで、様々なトリテルペノイド骨格化合物に対するするP450活性のスクリーニングが可能である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、様々な担子菌シトクロムP450モノオキシゲナーゼをトリテルペノイド骨格化合物に作用させて新奇な化合物を創出することを目標としている。本年度までに、植物型トリテルペノイドの骨格化合物合成酵素と糸状菌P450の共発現技術を開発することに成功しており、次年度以降の実験効率が大幅に向上すると期待される。また、ルペオールに活性を示す糸状菌P450が見出されたことから、糸状菌P450を利用することで様々な植物型トリテルペノイドが得られると期待される。次年度以降は、骨格化合物のバリエーションを拡大し、多種多様なトリテルペノイドの産生に着手する。 一連の研究過程において、セスキテルペノイドおよびジテルペノイドに対して強い変換活性を有する糸状菌P450も見出された。本研究が対象とするトリテルペノイドの他、様々な有用テルペノイドの産生を促進する結果として期待している。 以上より、本研究は概ね順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度までに、白色腐朽担子菌P. chrysosporiumに由来する120種類および褐色腐朽担子菌P. placentaに由来する184種のP450を対象として、ルペオール変換活性を追跡してきた。次年度以降は、麹菌Aspergillus oryzaeに由来するP450を用いた検討を加え、ルパン型トリテルペノイドの高生産を目指すと共に、種々の植物型テルペノイド骨格化合物に対する変換活性を網羅的に追跡し、構造多様性に富むトリテルペノイド群の産出技術を確立する。分析条件は本年度までに最適化しており、期間内の一斉分析が可能である。 また、糸状菌型トリテルペノイドの生産を目的として、ラノステロール合成酵素に機能強化を加え、糸状菌P450との共発現を達成して有用トリテルペノイドの獲得を進める。さらに、トリテルペノイド生産に利用可能なP450は大腸菌等を用いて大量に発現させ、精製酵素を用いた機能解析を加えることで酵素特性を明らかにする。酵素の諸特性を明らかにすることで、トリテルペノイドの生産性向上を可能とする重要な知見が得られると期待している。我々は、大腸菌を用いた真菌P450の異種発現技術を開発済であり、速やかに検討を開始することができる。
|