研究課題/領域番号 |
16H04956
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
近藤 哲男 九州大学, 農学研究院, 教授 (30202071)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | セルロース / セルロース・ナノアネモネ / 竹セルロースナノファイバー / 水中カウンターコリジョン(ACC)法 |
研究実績の概要 |
一般に知られているセルロースナノファイバーの形態はホモジニアスな直線状の繊維と認識されている。これに対し、水中カウンターコリジョン(ACC)法は、条件により、シングルナノファイバー内に顕著にフィブリル化した片末端を有する「セルロース・ナノアネモネ」を与える。これは、ACC法による天然セルロース繊維のナノ微細化の際、高圧水が還元性末端から侵入し、グルカンシート間の分子間相互作用が切断されるためと考えられる。本年度は、セルロース・ナノアネモネ中のイソギンチャク状触手における還元性末端の化学修飾の試みとして、ベンゼン環の導入を検討した。 原料としては、酢酸菌由来のセルロースをモデル原料として用いた。酢酸菌を通常の培養および溶存酸素下条件で培養することにより得られたペリクルをACC処理 (200 MPa、30 pass)に供し、0.01% (w/w)ナノファイバー分散水を調製した。多糖の還元性末端にフェニル基を導入するため、30 mLの分散水に対して0.15 mLのフェニルヒドラジンを加え、70°C、24時間振とうののち、得られた試料を超純水によって洗浄した。この試料をタンパク質であるカゼインが含まれる水酸化ナトリウム水溶液に加え、紫外(UV)吸光度測定を行った。 FT-IR測定により、1599 cm-1にベンゼン環由来のピークが見られ、しかも270 nm付近にフェニルヒドラジンのUV吸収が見られたことから、セルロース・ナノアネモネに対してフェニルヒドラジン基が導入されたことが示された。さらに、カゼイン溶液にこのフェニルヒドラジン修飾アネモネを加えると、275 nmにUV吸収ピークが見られた。処理前のカゼイン溶液のピークが290 nm付近に見られることから、275nmへのピークシフトはフェニルヒドラジン修飾アネモネに対するカゼインの吸着を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究申請書において、平成28年度に1)木材および竹からのセルロース・ナノアネモネ創製とアネモネ触手に由来する特異物性の解析、平成29、30年度で2)官能基のナノアネモネ触手還元性先端への集積導入の検討を行う予定としていた。 上記の1)については、本年度、来年度と、昨年度に続き研究を継続し、さらなる展開を図っている。2)についての最初の官能基集積導入成果として、セルロース・ナノアネモネに対してフェニルヒドラジン基が導入されたことが示されたことから、平成30年度への展開が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度も、引き続き官能基のナノアネモネ触手還元性先端への集積導入を検討する。 本申請課題では、各原料由来のナノアネモネ触手還元性先端にチオール基、アジ基、シッフベースによるフェニルヒドラゾン基の導入を検討することになっている。さらに、末端アジ基からの環化付加反応および、アセチレン修飾タンパク質とのクリックケミストリーによるタンパク質担持へと展開する。また、平成29年度で得られたシッフベースによるフェニルヒドラゾン基の導入セルロース・ナノアネモネについても、さらなる検討を実施する。 さらに、申請書の実施予定にはないが、セルロース・ナノアネモネの水分散液中での状態について、これまでは透過電子顕微鏡観察等の乾燥固定状態での形態観察が中心であった。平成30年度では、その場(in situ)観察法(例えば、共焦点レーザー操作顕微鏡観察など)を検討し、リアルタイムでの水分散液中のセルロース・ナノアネモネ運動性をモニターすることを図る。
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