本研究では、セルロースナノファイバーの新たなナノ構造形態として、非対称セルロースナノファイバー「セルロースナノアネモネ」を提唱し、その物性を検討した。 まず、セルロース試料の懸濁水を高速で対向衝突させ、その衝撃波による界面破壊が天然セルロース繊維のナノ微細化を誘発するACC(水中カウンターコリジョン)法では、繊維両末端の還元性の有無の違いに起因して、選択的に還元性末端から生じることを明らかにした。 次いで、溶存酸素下での酢酸菌の培養で得られるセルロースナノファイバーのゲル状膜が、準安定なセルロース Iα結晶構造を多く含むことに着目し、これを原料として、異方的なナノ微細化を誘発させるACC法を適用させた。その結果、片末端がさらに顕著にフィブリル化し、反対末端が全くフィブリル化していない非対称なセルロースナノファイバーが得られることを発見している。このナノファイバー形状がイソギンチャクに類似していることから、「セルロースナノアネモネ」と名付け、同上の透過型電子顕微鏡観察の結果、このフィブリル化した末端もセルロースの還元性末端側に存在することを確認した。 さらに、水中での繊維存在形態を明らかにするため、フィブリル化した枝部の還元性末端を蛍光分子で化学修飾し、共焦点レーザー顕微鏡によりその動的挙動をタイムラプス動画によりモニターしている。その結果、顕著なブラウン運動が認められ、その挙動から流体力学直径を算出・評価したところ、水中でもセルロースナノアネモネは枝部を広げて存在していることを明らかにした。 最後に、その分散水の粘弾性挙動について、繊維同士の相互作用に由来するチキソトロピー性発現の観点から検討した。セルロースナノアネモネ分散水は、チキソトロピー性を示し、せん断ストレスを負荷するごとに通常現れる零せん断粘度の低下はみられず、初期値が維持されることを見出した。
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