本研究では、イオン液体を用いた木質バイオマスの化学変換法の確立を目指し、未だ解明されていない木質バイオマスの各種フラン化合物への変換における基礎的な反応機構の解明を行うと同時に、フラン化合物のイオン液体からの抽出について検討を行い、それらの知見をベースとしたフラン化合物の高収率生成プロセスの構築を研究目的としている。その中で、本年度(平成30年度)は、イオン液体中に生成したフラン化合物の蒸留法による抽出に関する検討とイオン液体中でのフラン化合物生成反応におけるリグニンの反応挙動や残渣として得られるリグニンの性状に関する検討を行い、下記のような研究成果を得た。 昨年度までに、5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF)やフルフラールなどのフラン化合物を木質バイオマスから得るためには、イミダゾリウム系イオン液体が適していることを明らかにしたが、このイオン液体反応系に、減圧水蒸気蒸留法を組み合わせることで、イオン液体中に生成したフラン化合物を抽出することが可能であることを明らかにした。減圧度や水蒸気量を変化させることで、抽出されるフラン化合物の量も変化することも明らかにした。この反応系において、リグニンの一部は分解を受け、イオン液体に可溶化したが、大部分は残渣として回収された。この残渣リグニンを分析したところ、イオン液体と部分的に反応していること、原料木材中のリグニンにはない官能基が含まれていること、さらにニトロベンゼン酸化分解で得れれるバニリン類の収率も原料木材とは大きく異なるなど、原料木材中のリグニンとは異なる性状を示すことが分かった。したがって、本研究で用いたイミダゾリウム系イオン液体は、セルロース、ヘミセルロースからフラン化合物を生成するだけでなく、リグニンを変性しうることも見出した。
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