研究課題/領域番号 |
16H04961
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
木元 克典 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 主任技術研究員 (40359162)
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研究分担者 |
清水 啓介 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生命理工学研究開発センター, ポストドクトラル研究員 (00757776)
佐々木 洋 石巻専修大学, 理工学部, 教授 (10183378)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 海洋酸性化 / 北西部北太平洋 / 有殻翼足類 / ミジンウキマイマイ / 殻密度 / 遺伝的多様性 |
研究実績の概要 |
北太平洋亜寒帯域は、世界で最も海洋酸性化が進行している海域の一つであるだけでなく、生物生産が高く我が国の水産業にとっても需要な海域と位置付けられる。初年度は2016年6月19日から7月13日までの約1ヶ月において、北海道大学の練習船おしょろ丸を用いて北西部北太平洋において観測を実施し、海洋環境の観測および、海洋酸性化の影響を受けやすいとされる有殻翼足類リマシナ・ヘリシナ(ミジンウキマイマイ)の採取を行なった。まず北西部北太平洋における有殻翼足類の現存量と遺伝的多様性を調べるため、時系列観測点K2(北緯47度 東経160度)から天皇海山列(北緯45度東経170度付近)に至るまでの範囲よりプランクトン試料を採取した。 有殻翼足類ミジンウキマイマイの採集は1)産出状況、2)形態分布、および3)遺伝的多様性を調べるために、VMPS(鉛直多層曳プランクトンサンプラー)を用いて採集を行った。下船後にこれらのサンプルの群集解析と鉛直方向の分布、およびマイクロフォーカスX線CT装置を用いた形態解析を実施した。予察的な結果では、ミジンウキマイマイの幼生は北西部北太平洋のKNOT, K2および、天皇海山列直上の表層に最も多く、成体は水深100mまでに多く存在するが、それよりも深い水深になると急激に個体数を減じることが明らかとなった。 さらに、流水飼育水槽製作のための基礎的情報を得るため、程度の良い個体を選択して飼育実験に供した。緩やかな動きのある水流のなかでの挙動について静止画および動画撮影を行い、水流中での振る舞いについての情報を得たうえで、3器の飼育水槽の作成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度は、当初の目的であったミジンウキマイマイの平面的分布、鉛直的分布、そして飼育実験に供するための基礎的情報を得ることができた。またハイブリッドpHセンサーの製作も問題なく完了し、性能も要求を十分に満たすものであることが確かめられた。 上記観測に加え、マイクロX線CT装置を用いた殻密度計測とその結果について慎重な検討を行い、その予察的な結果の一部をタスマニアで開催された国際学会で発表した。新たに導入した高精細X線検出器で撮影した結果によると、ミジンウキマイマイの殻密度は成長に伴い周期的に変動していることが明らかとなった。これは生息時の周囲の海洋環境を反映するものである可能性を強く示唆する。これを明らかにするためには、天然環境下で生育したミジンウキマイマイの殻密度と、現場の海水の化学的性質を一対一で付き合わせて検証する必要がある。今後は海洋酸性化の指標となる炭酸系や水温との直接比較に加え、船上での複数条件下での飼育実験を実施し、異なるpH環境下でどのような殻を形成するのかについての素過程情報を蓄積してゆく必要があると考えている。このように研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最大のミッションである、ハイブリッドpHセンサーによるpH時系列変動と、セジメントトラップ中のミジンウキマイマイの殻密度の比較研究のための係留系の設置を2017年度に行なった。2018年度にはこれを回収する公開を予定している。これにより、当初の最大の目的であった水塊のpH時系列変動と、その中で生活するミジンウキマイマイの殻密度とを同時に比較することができ、海洋酸性化の進行と生物骨格の直接対比を行える極めて重要な成果になると期待できる。 またマイクロフォーカスX線CT装置を用いた骨密度計測のプロトコルがほぼ確立した。現在この方法を特許申請するため、準備を進めている。 北太平洋におけるミジンウキマイマイの遺伝的多様性と殻形態との比較は、生物多様性についての情報のみならず、彼らの生態と環境との相互関係および共進化を探る上でも役立つと期待できる。しかし一方で、遺伝子抽出を行うための軟体部の処理を行うと、炭酸カルシウム殻の骨格を溶解してしまうことも明らかとなった。個体と遺伝子の一対一の対応を行うべく、試薬の選択および遺伝子抽出プロトコルの向上をあわせて行なってゆく予定である。
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