卵膜軟化症は,サケ増殖事業における卵期の主な減耗要因の一つである。本病には細菌や水質などの関与が指摘されてきたが,100年近く経過した現在においても発症原因および機構は解明されておらず,発症の程度を表す明確な指標も定められていない。本研究は,卵膜軟化症の発症原因の特定から科学的エビデンスに基づく防除法の確立まで体系立てて行うものである。本年度は,本年度は,卵膜軟化症原因菌の可能性が高いFlavobacteriaceae科細菌の分離培養を平板塗抹法および卵膜を基質とした液体培地での限界希釈法により行った。さらに,病卵と正常卵,環境要因についてLC/MS,電気泳動,およびNMRを用いた網羅的物質解析を行い,代謝物プロファイルを比較することで病気のマーカーとなる物質を探索した。 複数種の寒天培地平板を用いてFlavobacterium属に特徴的な黄色コロニーを優先的に釣菌し,16S rRNA遺伝子の部分塩基配列を決定したが,軟化症発症卵に優占する特定のOTUに相当する細菌を単離するには至らなかった。滅菌卵膜を培地とした限界希釈培養P1と非常に類似した配列をもつ細菌が増殖したことが明らかとなった。病卵と正常卵の比較においては,SDS-PAGEやLC/MS/MS分析により得られたトータルイオンスペクトルの比較により,孵化時のような卵膜の分解が早期の段階で起きていること,さらに本病による卵膜の分解が孵化時の変化と類似するが同一ではないことを明らかにした。
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