褐藻のカロテノイド生合成酵素については、リコペンをβ-カロテンへと変換するワカメのリコペンβ-シクラーゼを褐藻では初めて同定した。リコペン生合成能をもつ組換え大腸菌に本酵素の遺伝子を組み込み、蓄積したカロテノイドをHPLCおよびAPCI-MS法により調べ、反応産物がβ-カロテンであることを明らかにした。さらに、褐藻ではβ-カロテンはゼアキサンチンへと変換される可能性が考えられるため、この反応を触媒するβ-カロテン水酸化酵素の同定を試みた。2つの候補遺伝子をワカメ・トランスクリプトームデータベースから見出し、各遺伝子をβ-カロテン生合成能をもつ大腸菌に導入したが、β-カロテン以外の成分は検出されなかった。これは、目的タンパク質の発現量がいずれも低く、酵素活性の検出が困難なためと考えられた。 多糖類については、褐藻の主要多糖であるアルギン酸の代謝について、新しい知見を得た。先に本研究ではマコンブがアルギン酸分解酵素をもつことを見出しており、本年度は、その反応産物を詳細に解析した。その結果、本酵素はアルギン酸のマンヌロン酸が連続した配列を分解し、最小分解物として不飽和単糖(DEH)を生じることが分かった。DEHは、アルギン酸資化生物ではアルギン酸代謝における中間代謝物であり、これを基質とするDEH還元酵素の存在が知られているが、褐藻ではこれに相当する酵素の知見は無い。そのため、既知の同酵素と有意な配列相同性をもつタンパク質の遺伝子をマコンブ・トランスクリプトームデータベースを用いて調べ、4つの候補タンパク質に着目した。各組換えタンパク質の酵素活性を調べた結果、1つのタンパク質がNADPHを補酵素として、DEHを還元し、2-ケト-3-デオキシ-D-グルコン酸へと変換することを明らかにした。これは、アルギン酸分解物を代謝する酵素がアルギン酸生合成生物で見出された初めての例である。
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