研究課題/領域番号 |
16H04984
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中西 照幸 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (00322496)
|
研究分担者 |
間野 伸宏 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (10339286)
杣本 智軌 九州大学, 農学研究院, 准教授 (40403993)
高野 倫一 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 増養殖研究所, 研究員 (40533998)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 魚類 / クローンギンブナ / 細胞性免疫 / インターフェロンγ / リンパ球 / 白点虫 |
研究実績の概要 |
1.細胞性免疫関連分子の活性に基づいた細胞性免疫機能測定法の開発:ギンブナで同定されたグランザイムAに相同な遺伝子はコイ目で進化した遺伝子と考えられ、ブリ等で見つけることはできなかった。そこで、海産魚において細胞性免疫機能を測定する方法として、細胞性免疫において重要な役割を果たすインターフェロン(IFN)γを新たな評価指標とし検討した。カンパチの組換えIFNγを作製し、これに対するモノクローナル抗体を作製した。 2.鰭膜内接種法による細胞性免疫機能測定法の開発:貪食の際に貪食細胞内のpHの低下に伴い蛍光を発する試薬を用い、Zymosan投与群に比べStaphylococcus aureus投与群において集積する貪食細胞が多いことが判明した。また、PHAを抗原として投与した場合鰭膜内のリンパ球の幼若化が認められた。また、好中球は造血部位である腎臓において分化し、血液を介して抗原接種部位の背鰭に遊走することを明らかにした。さらに、背鰭にPHA投与を投与した場合、腎臓や脾臓において好中球の増減及び脱顆粒が認められ、局所における刺激が全身的な反応を誘導していることが明らかとなった。 3.リンパ球による殺菌活性を指標とした細胞性免疫機能測定法の開発:淡水性白点病の病原体である繊毛虫のIchthyophthirius multifilis(白点虫)に対して細胞傷害性T細胞が直接傷害活性を示すかどうかについて検討した。その結果、クローンギンブナの腎臓及び鰓より単離したCD4陽性細胞、CD8陽性細胞、マクロファージ及び好中球と白点虫をin vitroで1時間培養すると、CD8陽性細胞のみが接触していることが示された。このことから、CD8陽性の細胞傷害性T細胞が直接白点虫を傷害することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ギンブナで同定されたグランザイムAに類似するセリンプロテアーゼ遺伝子に相同な遺伝子を、ブリ等のRNAseq解析結果から探索したが見つけることはできなかった。また、ゼブラフィッシュやメダカのゲノム情報を利用した遺伝子シンテニー解析からも、本遺伝子がコイ目で進化した遺伝子と考えられる。そこで、海産魚において細胞性免疫機能を測定する方法として、細胞性免疫において重要な役割を果たすIFNγを新たな評価指標とし検討し、カンパチの組換えIFNγを作製し、これに対する抗体を作製した。 貪食の際に貪食細胞内のpHの低下に伴い蛍光を発する試薬を用い、抗原の種類による応答の違いについて検討した結果、Zymosan投与群に比べStaphylococcus投与群において集積する貪食細胞が多いことが判明した。また、PHA投与した場合には、鰭膜内のリンパ球の幼若化が起こり、好中球はPHA投与1日目には腎臓において減少し、その後脾臓及び末梢血において増加し、遅れて投与部位の鰭において増加することが判明した。さらに、背鰭にPHA投与を投与した場合、腎臓や脾臓において好中球の増減及び脱顆粒が認められ、局所における刺激が全身的な反応を誘導することが明らかとなった。 白点虫に対して細胞傷害性T細胞が直接傷害活性を示すかどうかについて検討した結果、ギンブナの腎臓及び鰓より単離したCD4陽性細胞、CD8陽性細胞、マクロファージ及び好中球と白点虫をin vitroで1時間培養すると、CD8陽性細胞のみが接触することが判明し、CD8陽性の細胞傷害性T細胞が直接白点虫を傷害することが示唆された。さらに、組み換えIL-12で腎臓白血球を刺激することによりIFNγ遺伝子の発現上昇が認められ、IL-12によるナイーブヘルパーT細胞(Th)から細胞性免疫の誘導に関わるTh1細胞への分化誘導が示されるなど副次的な成果も得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
1.鋭敏かつ簡便な細胞性免疫機能測定法の開発:ギンブナで同定されたグランザイムに類似する遺伝子はコイ目で進化した遺伝子と考えられ、海産魚のブリ等では見つけることができなかった。一方、ヒトやウシの結核感染診断において従来のツベルクリン反応に代わる鋭敏で特異的な手法が開発されている。全血IFNγ応答測定法(IGRA)と呼ばれ、血液を結核菌特異的なタンパクで刺激し、結核菌特異的T細胞の産生するIFNγの産生量を測定するものである。そこで、細胞性免疫機能測定の指標をグランザイムよりIFNγに変更し、カンパチの組換えIFNγに対する抗体を作製した。今後これらの抗体を用いてブリ属魚類のノカルジア症に対する試作ワクチン投与後の血液あるいはリンパ球を用い、IGRA 法によりIFNγレベルをELISA法によって測定する方法を検討する。 2.鰭膜内接種法による細胞性免疫機能測定法の開発:平成29年度は用いる抗原により集積する細胞の種類や数が異なることが判明した。今後は、検討する抗原の種類を増やしグラム陰性細菌や人工抗原の蛍光ラテックスビーズを用いて検討する。PHA投与に伴う免疫応答の誘導については、局所免疫と全身免疫との相互作用について解析するとともに、免疫記憶に基づく2次応答の有無について検討する。さらに、鰭膜接種法の海産魚への応用を図る。 3.リンパ球による殺菌活性を指標とした細胞性免疫機能測定法の開発:CD8陽性細胞傷害性T細胞が直接原虫Ichthyophthirius multifilis(白点虫)を傷害することが示唆された。そこで平成30年度は、認識レセプターに着目したT細胞による原虫の認識機構、殺傷に用いられる細胞傷害因子について検討する。また、白点虫を鰭膜に2回注射し、免疫記憶の存在とリンパ球の二次応答について検討する。
|