本研究は、大いなる見えざる国富の消失ともいうべき、地域の自然資本劣化に焦点をあて、自然資本のよきガバナンスを実現するための道筋を学術的に解明しようとするものである。生態系サービスの湧出源としての自然資本の適切な保全は、日本社会全体の持続可能性の観点からも重要である。そこで本研究では、実証的な観点から、①包括的な自然資本の社会的有用性評価枠組みの構築、②不確実な事象に対する自然資本のレジリエンスの規定要因の解明、③自然資本のよきガバナンスに向けた多様な主体による協働統治の可能性の検討した。具体的には、自然資本の未知なる有用性に着目し、それらの社会経済的価値を包括的に評価するための分析ツールの開発と実践を中心に研究を推進した。今年度は、前年度に引き続いて分析ツールを開発すると同時に、全国や分析対象サイトにおける多角的な評価への適用を模索し、その実践に取り組んだ。まず、北海道厚岸での適用を視野に、そのモデルケースとして広島湾での森里川海の連携に関する統合的な自然資本モデルを構築し、陸域を自然資本とみなし、その栄養塩供給サービス、併せて海域を自然資本とみなし、その供給サービスを評価した。また、最適輸送理論を援用することで、全国の紅葉の名所を対象に、紅葉狩りのレクリエーション価値と密接な関係を有する間接効用を定量評価した。さらに、全国の過疎指定地域を対象にweb調査を行い、地方の人口流出を抑制する要因として地域固有生態系サービスを湧出する自然資本と住民目線のガバナンス指標の関係を分析した。
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