研究課題
平成29年度は、青果物(リンゴ)を乳酸菌溶液に浸漬後、真空凍結乾燥機により乳酸菌を固定化させ、プロバイオティクス農産食品を製造するとともに、その保存性、乳酸菌生存率および食味の保存中の変化を種々の保存条件下で測定を行った。ここに、保存性は水分活性、色彩色度やガラス転移温度により、食味は官能試験により測定した。その結果、フリーズドライ(真空凍結乾燥)したサンプルの水分収着等温線はGAB式を用いて高い精度で表現できること、色彩色度は、湿度が低いほど褐変が抑制されたが、湿度が0 %近辺となると脂質酸化と思われる褐変が生じることが示された。また今回、サンプルの明確なガラス転移温度は得られなかった。次に、サンプル内乳酸菌は、保存時間とともに指数関数的に減少し、保存温度が高いほど減少率は大きくなった。乳酸菌残存率は湿度(水分活性)依存性があり、湿度11 %付近にて乳酸菌の生存が最も高まることが示された。保存後のサンプルの食味は、乳酸菌を固定化させていないサンプルと比較して、有意差はないものの高い評価を得た。以上、農産食品の長期保存条件は、ある程度の低水分活性領域が望ましいことを定量的に示した。今後は温度の影響について検討する。更に本研究では、農産食品の環境負荷の解析の一例として、キャベツの遠赤外線乾燥過程における消費電力について評価し、平成30年度に実施する予定であるLCA手法による環境負荷の評価に必要な予備的解析を行った。その結果、低温長時間乾燥における潜熱顕熱比が高温短時間乾燥のそれと比べて有意に大きくなったことから、同条件において投入された乾燥エネルギが試料の水分蒸発に使用される割合が大きいこと、すなわちエネルギ効率が良好であることを定量的に示すとともに、低温長時間乾燥の方が高温短時間乾燥と比べて消費電力量の削減効果が大きくなることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本研究は最終的に、①穀物・農産食品の高品質長期保存に必要な水分活性とガラス転移温度を測定し最適保存条件を提案すること、②農産食品の長期保存における品質・水分や理化学的特性の計測・評価、③ライフサイクルアセスメント手法を用いた環境負荷やコスト評価を行うことを目標としている。現時点で、①と②に関してはある程度の低水分領域が保存に望ましいことを定量的に示すことができ、③については論文としての成果も出た。よって研究は順調に進展していると判断する。
平成30年度は、青果物の高品質長期保存を行うにあたり必要不可欠となる腐敗菌の制御に関する新しい保存法(バイオプレザベーション)について検討する。具体的には、生鮮青果物を乳酸菌溶液のなかに浸漬させた後、洗浄して保存することにより、青果物の腐敗菌や乳酸菌、および青果物の品質や理化学的特性の経時変化について測定を行う。以上の測定を、種々の保存条件下(温度、湿度(水分活性)、包装方法、乳酸菌株)で行い、バイオプレザベーションに最適な保存条件を探索するとともに、複数の微生物数の経時変化を予測・評価できる新たな概念図を提案する。更に、平成29年度に行った水分活性および保存時間がフリーズドライ農産食品の品質および微生物数に与える影響について再測定を行う。ここでは特に保存中の農産食品内の微生物数に関する長期予測モデルの適応性を検討し、得られた知見とガラス転移温度との関係を考察する。加えて、平成30年度は穀物・農産食品の乾燥・保存条件における環境負荷についてLCA手法により解析し、そのホットスポットを明確化する。またプロセスの改善ポイントを明らかにし、環境面から見た最適乾燥・保存条件について検討する。平成31年度は、これまで得られた知見をもとに、高品質で長期保存を可能とする条件を水分活性、温度、LCAの観点から整理し、実用化につながる穀物・農産食品の高品質・長期保存方法を提案する。
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農業食料工学会誌
巻: 80(1) ページ: 66-74
Food Quality and Safety
巻: 2(2) ページ: 印刷中
https://doi.org/10.1093/fqsafe/fyy006