研究課題/領域番号 |
16H05004
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
井原 一高 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (50396256)
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研究分担者 |
清水 和哉 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (10581613)
間世田 英明 徳島大学, 大学院生物資源産業学研究部, 准教授 (10372343)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 抗生物質 / 耐性菌 / 磁気分離 / 畜産廃水 |
研究実績の概要 |
畜産業において,家畜の疾病治療そして成長促進等を目的として動物用抗菌剤(抗生物質)が使用されている。近年,畜産業で使用された抗生物質が畜産廃水および廃棄物を通じて環境拡散し,関連する耐性菌の出現が指摘されている。本研究の目的は,薬剤耐性菌の出現を防止するため,畜産廃水に含有する抗生物質の処理技術として,永久磁石を用いた磁気分離法を確立することである。特に,畜産施設といったオンサイトで処理装置を展開できることを目指し,経済的で維持が簡便な磁気分離装置の開発を目標としている。抗生物質は強磁性物質ではないため,そのままでは磁気力での牽引は困難であるが,磁性を付与することができれば磁気分離が可能になる。本年度は,抗生物質の磁気分離研究として畜産廃水に含有する抗生物質への電気化学磁気シーディング法(磁性付与法)の検討およびNd-Fe-B磁石を用いた磁気分離装置による抗生物質の高勾配磁気分離試験を実施した。磁気分離処理による目標値を設定するために,水処理微生物を用いた抗生物質への暴露評価試験を行った。 抗生物質の磁気分離研究では,畜産廃水に含有するテトラサイクリン系抗生物質に対する電気化学磁気シーディングにおいて強磁性物質濃度が除去率に大きく影響することを明らかにした。また,Nd-Fe-B磁石磁気分離装置に,磁気フィルタとして磁性材料を配置することによって,永久磁石においても高勾配磁界による抗生物質の除去率向上の効果が得られることを立証した。 また,抗生物質の暴露評価試験においては,排水処理過程を想定しニューキノロン系抗菌剤の暴露経験がある活性汚泥由来の微生物群集に対する再暴露試験を実施した。その結果,他の抗菌剤に対しても耐性を示す細菌群を確認した。すなわち,一定濃度のニューキノロン系抗菌剤に対して再暴露されると多剤耐性菌出現リスクが生じることが推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
畜産廃水に含有する抗生物質の分離を左右するのは,抗生物質への磁気シーディング法と対象物に対応できる磁気分離装置の2点である。両者について平行して実験を進めた結果,オンサイト設置を想定した装置の開発に必要な要素技術の開発と,磁気分離プロセス全体の課題が整理できたことが主たる理由である。また,リスクが高いとされるニューキノロン系抗生物質を用いた評価系の研究においては,得られた知見は磁気分離による濃度低減目標の設定に寄与すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
畜産廃水に残留する抗生物質を目標濃度まで低減するためには,磁気シーディングの改善と磁気分離装置の改良の両方が必要である。一方で,初年度の研究成果から永久磁石と磁気フィルタを組み合わせた磁気分離装置には技術的な制約もあることがわかってきた。抗生物質への磁気シーディング法については共存物質への対応をより一層強化するとともに,目標濃度まで抗生物質を確実に低減できるよう永久磁石由来の磁場空間を生かした分離フローについて研究を進める方針である。
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