研究実績の概要 |
薬剤耐性菌の環境への拡散を防止するため,畜産廃水に含有する抗生物質のオンサイト処理技術として,永久磁石を用いた磁気分離法の開発と,畜産廃水由来の耐性菌出現を避けるために耐性遺伝子変異と抗生物質濃度との関係を調べ,耐性菌の出現リスクについて明らかにすることを試みた。 抗生物質の除去率向上のために,抗生物質の磁性付与(磁気シーディング)と磁性付与した抗生物質に作用する磁気力増大の2点について研究を行った。前者の改善法として,pH制御型電気化学磁気シーディングについて検討した。磁気シーディング時に特定のpHに溶液を制御することによって,酪農廃水からのオキシテトラサイクリンの除去率が大幅に改善されることを見出した。後者については,循環濃縮式による分離法を検討し,安定的な分離除去が可能であることを明らかにした。 また,畜産業等で用いられる抗生物質等による耐性菌の出現リスクについて検討を重ねた。抗菌薬に曝露されるモデル系を作成し,抗菌薬レボフロキサシンを用いたモデル系では、曝露前のリアクター内微生物群全体を対象とした最小生育阻止濃度(MIC)が32 mg/L、最小殺菌濃度(MBC)が512 mg/Lであったことを基に、曝露濃度を4 mg/L, 16 mg/L, 128 mg/Lとして実験を行った。曝露濃度4 mg/Lにおいては、微生物群集構造に優位な変化は与えなかった。また、どの曝露濃度においても、曝露中に多剤耐性菌が生じていたと示される結果を得た。しかし、どの系においても抗菌薬を排除した環境に曝露し直すことにより、耐性菌の数が激減し、もとの感受性菌の分布に戻されることが明らかになり、本モデル系においては、抗菌薬の環境へのリスクは一過的であるものの、抗菌薬を適切に低減することで、そのリスクさえも除去できることが明らかになった。
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