研究課題
ウシの受胎率の低下は、微弱発情や無発情などの発情行動の異常に起因する。本研究では、発情行動に第一義的役割を果たすエストロジェン(E)の受容体(ER)発現をコンディショナルにノックアウトできる遺伝子改変ヤギを、ゲノム編集技術とアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを活用して作出する。この動物をモデルとして用いて、反芻家畜の発情行動を制御する神経機構の局在を同定し、その分子メカニズムを解明することを目的とする。本年度は、昨年度に引き続き発情行動を任意のタイミングで誘起するため、卵巣除去シバヤギにプロジェステロンおよびEを処置して発情行動を誘起するモデルを構築し、発情行動特異的な指標(行動量、鳴き、交尾行動など)の定量と、血中性腺刺激ホルモン濃度の測定を行った。行動量の増加が黄体形成ホルモンサージに先行して起こり、この時間的相関関係は無発情個体においても顕著であったことから、発情に伴う行動量の増加は動物の発情を評価する定量的指標となることが明らかとなった。また、ゲノム編集技術を用いて、ヤギER遺伝子(ESR1)座にloxP配列を導入した遺伝子改変ヤギ(ESR1-floxedヤギ)を作出することを最終的な目的として、まず、RACE法によりヤギESR1遺伝子mRNAの塩基配列および推定アミノ酸配列の同定を行った。その結果、ヤギESR1遺伝子mRNAには少なくとも2つのバリアント(3,836および4,353塩基)が存在することが明らかとなった。今後、ヤギESR1のゲノム構造を明らかにすることを試みる予定である。さらに、AAVベクターを用いた遺伝子改変技術に適用するため、ヤギ脳内局所にAAV-Creを投与する手法の開発を行った。脳定位固定装置と脳室のX線造影画像を用いて、ERが発現する領域に微量投与用カニューレを留置する手法の開発を実施した。
3: やや遅れている
本研究では、発情行動誘起モデルの構築と発情行動の定量化を行うことを目的とした。本年度までに、卵巣除去シバヤギを用いてプロジェステロンおよびEの投与により発情行動を誘起する条件設定を行い、発情行動誘起プログラムの最適化によりモデル実験系の構築が完了した。このモデルを用い、発情行動特異的なパラメーター(行動量、鳴き、尾振り、交尾行動など)の定量と、その背景となる神経内分泌指標(血中性腺刺激ホルモン濃度、性ステロイドホルモン濃度など)の経時変化を調べたところ、発情に伴う行動量の増加が発情を評価する定量的指標となることを明らかにできた。また、本年度までに、ヤギ胎仔繊維芽細胞を用いてゲノム編集技術による相同組み換えを利用し、ESR1遺伝子座にloxP配列を導入した細胞系を樹立することを予定していた。現在のところ、ヤギESR1のゲノム構造情報を取得するのに時間を要していることから、ESR1遺伝子座にloxP配列を導入した細胞系の樹立には至っていない。次年度は、本年度に引き続いてESR1遺伝子座にloxP配列を導入した細胞系の樹立をめざす。さらに、脳定位固定装置と脳室のX線造影画像を用いて、ERが発現する領域に微量投与用カニューレを留置する手法の開発を行った。ERが発現する領域のひとつである内側視索前野(MPOA)の座標を同定し、MPOAに直接微量投与したEによりLHサージが誘起できたことから、微量投与用カニューレの留置が正確に行われていることが確認できた。
本研究では、ゲノム編集技術によりヤギESR1遺伝子座にloxP配列を導入した細胞系を樹立したのちに、体細胞クローン技術を利用してESR1遺伝子座にloxP配列を導入したESR1-floxedヤギを作出し、さらにCre/loxPシステムによりコンディショナルにESR1をノックアウトして反芻家畜の発情行動を制御する神経機構の局在を解明することをめざしている。本年度までに、それぞれの技術をヤギに適用する手法は確立されつつあり、これまでに確立した発情に伴う行動量増加を指標とした発情行動の定量的評価系と組み合わせて、発情行動を制御する神経機構の解明に全力をあげる。また、ヤギを用いた発情行動の定量的評価系とc-fosなどの最初期遺伝子発現の組織学的検索とを組み合わせて実施する実験に取り組み、反芻動物の発情行動を制御する神経機構の局在解析を加速化させる。
すべて 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 6件) 備考 (1件)
Biology of Reproduction
巻: 97 ページ: 81~90
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Endocrinology
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10.1210/en.2017-00429
http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~laps/index-j.html