乳牛の乾乳期栄養水準を代謝エネルギー要求量に基づき充足90%および110%の2群(各10頭)に分け,脂質代謝を中心とした肝機能,血液性状および乳生産に及ぼす影響を検討した。分娩前の乾物摂取量は90%群で低値を示した一方で,分娩後3週間の乾物摂取量は110%群と比較し4kg程度高値を示した(P=0.002)。BCSおよび乳量は両群で差は認められなかったが,飼料効率は乾物摂取量と乳量の結果を反映し90%群で高値を示した。このことから乾乳期の低栄養水準は分娩後の負のエネルギーバランスを改善する可能性が示された。次に肝臓組織片をマイクロアレイ解析し,前年度までにin silico解析等で選抜した脂質代謝関連遺伝子群の分娩前後での変動,栄養状態による差異を検討した。マイクロアレイ解析により検出された6523遺伝子でin silico解析により選抜した51遺伝子のうち, 31遺伝子が発現していた。妊娠前後のマウス肝臓の結果とは異なり,分娩後に発現が低下する遺伝子はPigKのみであり,90%群の分娩後のみで低下していた。両群とも分娩後に発現が増加した遺伝子は6遺伝子であった。一方で,分娩前3週においてAcaa1,Acaa2およびSod1の発現は分娩後週数と栄養水準による交互作用が認められ,110%群で90%群と比較し分娩前に低く,分娩後に増加したが,90%群では分娩前後を通して高値で一定に推移していた。メタボローム解析では307ピークが検出され,主成分解析の結果,分娩前後での違いはあるものの乾乳期栄養水準による違いはほとんど認められなかった。しかし,アセチルCoAに関しては,遺伝子発現と同様に90%群では分娩前後を通して高値で推移し,110%群では分娩前に低値,分娩後に高値であった。このことから,乾乳期栄養水準は,肝臓での脂肪酸β酸化活性に関連する遺伝子発現に影響する可能性が考えられた。
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