研究課題
ウマヘルペスウイルス1型(EHV-1)レセプターであるウマMHCクラスI分子を発現する小動物モデルを使用し、EHV-1潜伏感染の分子機構を明らかにする目的で、平成30年度は以下の実験を行った。EHV-1潜伏感染を再現する神経細胞モデルとして、RN33B-A68B2M細胞(ウマMHCクラスI重鎖遺伝子クローンを安定発現させたラット中脳縫線核神経細胞株)を作製した。本細胞株は温度感受性SV40ラージT抗原の導入によって不死化されており、33℃においては増殖が認められるが、培養温度を37℃に上昇させることによって分化し、神経細胞の形質を示すようになる。未分化RN33B-A68B2M細胞、分化RN33B-A6B2M8細胞にそれぞれEHV-1を感染させたところ、前者においてはウイルスの増殖感染が生じ、培養上清中に感染性ウイルス粒子が産生されたのに対し、後者ではウイルスの増殖が認められなかった。細胞内ウイルス遺伝子転写産物をRT-PCR法により比較定量したところ、分化RN33B-A68B2M細胞は未分化RN33B-A68B2M細胞に比較して著しく低い発現レベルを示した。EHV-1感受性マウスT細胞モデルとして作製したCTLL2-A68細胞(A68を安定発現させたマウスの細胞傷害性T細胞由来細胞株)にTGF-β存在下でウイルス持続感染を成立させ、デキサメタゾン等の薬剤処理ならびにTGF-βの除去を行ったが、ウイルスの再活性化は認められなかった。細胞表面にA68を高発現するクローンを選別した場合でも、in vitroにおけるウイルス感染率は0.97%と非常に低く、受身移入による潜伏感染の解析は困難と考えられた。以上に加え、ウマMHCクラスI分子を全身臓器に発現する遺伝子導入マウスの肺は野生型マウスの肺に比較してより高いEHV-1感受性を示すことを報告した。
2: おおむね順調に進展している
In vivoモデルとして当初計画していたCTLL2-A68細胞の受身移入による潜伏感染モデルは、細胞のウイルス感受性の低さにより、マウス体内でのトレースが困難であると考えられた。一方、平成30年度にin vitroモデルとして新たに作成したRN33B-A68B2M細胞は、本研究の目的であるEHV-1の潜伏感染の背景にある分子機構の解明に有用であると考えられ、順調に解析を行なっている。
EHV-1は神経細胞に潜伏感染することが示唆されているが、その一方で他のアルファヘルペスウイルスとは異なり、神経細胞におけるウイルス増殖は通常認められない。RN33B-A68B2M細胞は神経分化状態においてこの性質を模倣していることから、ウイルス感染時、再活性化誘導時に特異的に発現するノンコーディングRNAの解析を未分化RN33B-A68B2M細胞、分化RN33B-A68B2M細胞の双方に対して行い、ウイルス-神経細胞間の相互作用を明らかにする。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件)
Veterinary Pathology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1177/0300985819834616
FASEB Journal
巻: 33 ページ: 1873-1886
10.1096/fj.201801176R
American Journal of Pathology
巻: 189 ページ: 677-686
10.1016/j.ajpath.2018.11.009
BMC Veterinary Research
巻: 14 ページ: 301
10.1186/s12917-018-1624-8
Veterinary Immunology and Immunopathology
巻: 198 ページ: 6-13
10.1016/j.vetimm.2018.02.004
Journal of Medical Microbiology
巻: 67 ページ: 415-422
10.1099/jmm.0.000689