研究課題
内臓型リーシュマニア症ではヒトもイヌも不顕性感染が多い。早期診断が臨床的にも疫学的にも重要であるが、既存の診断ツールの感度は不十分である。そこで本研究では、新規のリコンビナント蛋白質を抗原とする免疫血清診断法を確立し、早期診断の有用性を検証すること、および、血中に出現する低分子量の核酸分子をバイオマーカーとするより感度と特異性の高い次世代型のリーシュマニア症診断法を開発するための道筋をつけることを目的とした。平成29年度は、SDS-PAGEから該当する抗原分子を切り出して、質量分析(LC-MS/MS)を行い、得られたデータをMASCOTプログラムで解析した。その結果、ペプチド情報から蛋白質Xの候補として数種類の遺伝子の検出に成功した。候補蛋白質遺伝子合成・発現ならびに組換え蛋白質精製を平成30年度に繰り越し、MASCOTでもっともスコアの高かったHSP70の組換え蛋白質を作製した。一方、バングラデシュにおけるヒトのリーシュマニア症の流行地で捕獲した14頭の野犬イヌを対象に、血漿中に遊離するセルフリーDNA(cfDNA)を網羅的に解析し、寄生虫由来DNAの検出を試みた。抽出したcfDNAを材料に次世代シーケンサーによるメタゲノム解析を行い、各サンプルあたり約2,300万配列を得た。イヌ由来配列を参照ゲノム配列へのマッピングにより除去した後、BLASTnプログラムによる相同性検索を行った。その結果、寄生虫種の配列と高い相同性を示すリードが計150配列得られた。線虫類の配列は糸状虫の感染を示唆しており、それらの共生菌と考えられるヴォルバキアの配列も検出された。また、原虫類の検出結果はリーシュマニアとバベシアの感染を反映しており、赤血球内寄生性のバベシアではcfDNAの検出結果と血液を対象としたPCRによる原虫検出結果に一致が認められた。
3: やや遅れている
(1)抗原Xについて質量分析を行った結果、ペプチド情報から蛋白質Xの候補を決定したが、候補蛋白質遺伝子の人工合成、ベクターへのクローニング、組換え蛋白質の発現と精製の一連の作業を外部委託することができず、平成30年度に繰り越しとなった。(2)バングラデシュのヒトのリーシュマニア症の流行地で捕獲した野犬の血漿中のセルフリーDNA解析を先行させたため、エキソソーム解析に着手できなかった。
1.抗原遺伝子のクローニングと組換え蛋白質の作製と精製L. donovaniのゲノム情報をもとに、候補蛋白質遺伝子の人工合成、pET30aベクターへのクローニング、組換え蛋白質の発現、ニッケルカラムによる組換え蛋白質の精製を実行する。また、組換え蛋白質を用いて、リーシュマニア感染犬のウエスタンブロット解析を実施し、診断法としての有用性を検討する。2.原虫由来エキソソームRNAの解析血漿中のエキソソームに原虫由来RMAが存在するかと明らかにする。キットで回収したtotal RNAをスタート材料とし、small RNAのライブラリーを作製し、次世代シーケンサーを用いてマルチプレックスのmicroRNAプロファイリング解析を実施する。回収されるRNAのほとんどはイヌ由来のmiRNAであると予想されるため、まずは、イヌのmiRNAのデータについて解析する。その後、トリミング、コンタミネーションのフィルタリング、ゲノムへのアライメントを行う。その他miRNAやmiRNAループ配列を集めたmiRbaseへのアライメントで検出精度を高める。
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https://www.vetmed.hokudai.ac.jp/research/detail/parasitology/
https://www.vetmed.hokudai.ac.jp/organization/parasitol/index.html