研究課題
黄色ブドウ球菌が産生するスーパー抗原毒素(SAg)は耐熱性スーパー抗原であり,食中毒の原因毒素として広く知られている。我々は黄色ブドウ球菌が鶏の浮腫性皮膚炎、化膿性関節炎・骨髄炎,趾瘤症,敗血症などの重要な病原菌であることから、SAgが本菌感染において役割を果たすか否かを検討した。SAgと鶏細胞株への作用を調べたところ、SAgが細胞空胞化を引き起すことを見いだした。また、SAgによる空胞形成時における細胞の応答を解析した。鶏マクロファージ由来株(HD11)、鶏肝細胞由来株(LMH2A)及びマウスマクロファージ由来株(J774A1)に、それぞれSAg遺伝子保有菌の培養上清、加熱後の培養上清、またはリコンビナントSAgを細胞に添加し細胞変化を観察した。細胞の空胞形成をneutral red uptake法により定量した。さらに、毒素によるHD11細胞のサイトカイン産生誘導活性をqPCR法により測定した。その結果,培養上清,加熱後培養上清およびリコンビナントSAgを添加した鶏由来HD11細胞とLMH2A細胞内には多数の空胞が観察された。しかし、マウス由来J774A1細胞では空胞が観察されなかった。次に,neutral red uptake法により空胞形成を定量的に測定した。毒素が添加した鶏HD11細胞の空胞形成はコントロールと比べ有意に高かった。さらに、毒素によるHD11細胞のサイトカイン産生誘導活性を調べた。毒素添加群ではIL-1β、IL-8、TNF-αの産生が有意に高く、炎症性免疫応答が誘導されたことが示唆された。これらの結果から,ブドウ球菌スーパー抗原毒素は新たな生物活性:細胞空胞化作用を有することが初めて明らかとなった。今後,さらに,空胞化作用と臨床における病原性との関連性,及びその分子病原機構について解析する.
2: おおむね順調に進展している
本研究は,概ね当初の予定計画の通り進んでおり,また,当初予期していた新たな生物活性が再現性実験により検証され,本研究の推進のため,大きな一歩を踏み出すことができた.
今後,さらに,これまで確認された新たな生物活性:特に空胞化作用について,詳細を調べると同時に,この生物活性が臨床における病原性との関連性,及びその分子病原機構について解析する.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
J. Appl. Microbiol.
巻: 122 ページ: 1672-1679
10.1111/jam.13462
Microbiol. Immun.
巻: 61 ページ: 12-16
doi: 10.1111/1348-0421.12460.
巻: 120 ページ: 781-789
doi: 10.1111/jam.13029.